専修大学生田キャンパス10号館から徒歩1分。国際交流会館と呼ばれる、専修大学に通う留学生と学生が共に生活することができる教育寮がある。ここでは、学生が寮生活を送ると同時に、季節ごとにイベントが行われ、活発な国際交流の場となっていた。i-Houseと親しまれるこの建物にこれまでの明るさはない。2020年8月以降、新型コロナウイルス感染拡大防止のため大学は施設の利用を中止し、i-Houseで生活する学生は一人もいない。コロナ禍でも交流を続けようと、留学生と専大生をつなぐ架け橋となる学生スタッフが奮闘している。(学年などは2021年11月の取材当時)
i-Houseは2014年6月に開館し、グローバル人材を育成する教育寮としての機能を持つ、専修大学の国際交流の拠点となる複合施設だ。学生の住む部屋が50室設けられ、専修大学に通う留学生に加え、寮内留学を行う日本人学生が生活を送っていた。専修大学に通う学生ならば、誰でも入寮することが可能だ。共用スペースや広いキッチンでは、コロナ前は盛んにイベントが行われ、日本語のほか各国の言葉で英語などの会話で溢れていたという。文学部日本語学科4年の松隈杏梨さんは、留学生の生活をサポートする住み込みのスタッフであるレジデント・アシスタント(RA)を経験した。「以前はハロウィンやクリスマスなど、季節に合わせてイベントを行っていた」と松隈さんは懐かしんだ。コロナ禍では対面でイベントを開催することができず、オンラインでの開催に移行した。
新型コロナウイルスの影響を受け、2020年8月以降、i-Houseで生活する学生はいない。収束不明なコロナ禍のため、大学側が入居を止めている。夏の時期に長期留学生が帰国するタイミングも重なった。コロナ禍を理由に中長期問わず留学が叶わず、大学の国際交流課の職員のみが出入りしている。また、i-Houseで生活していた学生スタッフもコロナを理由に実家へ戻ったり、一人暮らしを再開させたりする人が相次いだという。大学の入居停止・立ち入り禁止という措置により、i-Houseへは2021年11月時点でも立ち入ることはできない。生活する学生がいないため、学生同士が直接会って交流をすることは叶わなくなってしまった。こうした状況においても交流の機会を設けようと、学生スタッフはオンラインでの交流を盛り上げようと活動を行っている。
交流イベント オンラインで模索続く
2021年10月29日(金)、「Halloween Party!」をオンラインで開催した。文学部英米学科3年でレジデント・アシスタントを務める伊藤匠さんは、パーティーの企画と運営を行ったという。「過去行われたハロウィンパーティーは、仮装をして写真を撮ることがメインだった。しかしコロナ禍のため、開催できないので、今回はゲームをイベントの中心にした」と話した。練りに練ったというゲームは2つだ。一つは、「〇〇といえば?」。○○に当てはまる食べ物や場所を即座に考え、思いついた答えが多数派だったら勝利、という流れだ。もう一つは、「色合わせ」を行った。例えば緑がお題の場合、近くにある緑のものを5秒以内に持ってくることができれば勝ちというゲームだ。
「当初、オンラインで行うことは難しいかもと思っていた」と伊藤さんは話す。そこには言語の問題があった。ゲームのお題を出そうにも、参加する留学生の日本語理解度はバラバラだ。そのため、お題やルールについて、英語やイラストを使用し、回答例を提示するなどと細かく説明したパワーポイントを作成した。色やイラストをふんだんに用い、わかりやすくかつ伝わるように準備を重ねた。英語での台本も用意したといい、「これまでやってきたイベントの中で一番大変だった」と振り返った。
オンラインでも交流ができることに安心した一方で、不安もあるという。松隈さんは、「不安定なネット環境により中断してしまうことや、一度に全員の声を拾うことができない状況というのはよくある。イベントが開催できても、対面のように連絡先を交換したり話が弾んだりすることが少なくなってしまった。続く交流の難しさを感じる」と話した。
今後もオンラインでのイベント開催や交流は続けられる見通しだ。交流が深められるよう、模索は続いている。国際交流課が行うイベントは専修大学生であれば誰でも参加することが可能だ。専修大学のホームページ【国際交流・留学】の【TOPICS】の欄には、季節ごとのイベント開始のお知らせが掲載されている。
多言語飛び交う寮内 「英語が話せなくても大丈夫」
コロナ禍以前、賑わっていたi-Houseでは日本語や英語に加え、中国語など多くの言語が飛び交っていた。松隈さん、伊藤さん同様RAを務める商学部マーケティング学科3年の中橋勇進さんは、「英語が話せなくても交流はできる」とはにかんで語る。中学生のとき、オーストラリアへ3週間ホームステイをしたことがきっかけで国際交流に興味を抱いた。大学に入学し、英語への苦手意識を克服するため、1年次の後期に経験したのが寮内留学だ。寮内で留学が行うことができるプログラムは、国際交流課が設ける国際交流の一つだ。
中橋さんは、寮内留学プログラムの一環としてi-Houseに住むレジデント・パートナー(RP)となった。レジデント・アシスタント(RA)と異なり、RPは日本人寮生、つまり寮内留学生を指す言葉だ。留学生と住み、異文化を理解しコミュニケーション力を磨くことが目的だ。寮内留学期間中に出会ったアメリカ人のルームメイトらと3人で京都旅行に出かけたことが思い出に残っている。「案内するからにはと思い、日本史の教科書を読んで軽く学び直した」という中橋さん。事前に寺や神社といった主要単語の英語訳を調べた。旅行中のやり取りで、留学生が日本の天皇制に興味津々だったことが印象的だという。「ファミリーネーム(姓)がないことや、天皇はエンペラーと訳されるのに権威がないことに関心を持たれた。これまで考えたこともなかったので、自分も勉強になった」と旅行の1ページを振り返った。
オンラインハロウィンパーティーを企画したRAの伊藤さんは、食文化の違いも感じてきたという。「納豆と生卵を避ける留学生が多いように思う。生ものを安心して食べられるのは日本のいいところだ」と笑顔で話す。時期によってi-Houseを訪れる留学生の国と地域は異なる。来日予定の留学生に合わせて、日本の文化や習慣を教えるのもレジデント・パートナーの仕事のひとつだ。RAの伊藤さんは、入学2か月後の6月から国際交流のイベントに参加していた。「これからも英語を使って人を助けていけるようにしたい」と未来を想像する。
「マルチリンガル(複数言語話者)が当たり前なので、寮にいると刺激を受ける」と話すのは松隈さんだ。多言語が飛び交う寮内で生活し、言語学習を深めたいと感じるようになった。チリ人の留学生が、学生スタッフと話すときは日本語、他の留学生と話すときは英語、同じチリ出身の学生と話すときはチリスペイン語を使用しているのを見て、衝撃を受けた。「留学生は言語習得が上手な人が多いように思う。自分の言語力をあげたいと、頑張れる理由になる」と多様な言語が飛び交うi-Houseのコロナ前の様子を紹介してくれた。松隈さんは海外の人とかかわることがしたいと思い、i-Houseへ足を踏み入れた。2年次に、カナダのカルガリー大学へ3か月間留学した経験を持ち、「いずれ外国の人へ日本語を教えられるようになりたい」と目標を話してくれた。
「少しでも交流を」 学生スタッフ語る
「英語を苦手だと思っている人も、そんな思いを取っ払っていけるようにイベントをやっていきたい」と中橋さんは意気込む。新型コロナウイルスの影響により入学当初からオンライン授業が続けられている1、2年生にももっと参加してほしい、と考えている。「留学生は日本語を学びたくて来ている。英語が話せなくてもなんとかなる。積極的に参加すれば大丈夫!」と3人は口を揃えた。
i-Houseのほかにも、大学内には留学生の手助けをするキャンパスアシスタント(CA)という制度もある。登録者数は545人だ(大学HPより)。しかし、「実際、CA活動用のGoogleClassroomにいる数は60人程度。少しでも交流をしてみたい学生は積極的にCAとして動いてもらいたい。そのために私たちRAも頼ってもらえるように頑張る」と松隈さんは語った。CAは専修大学ウェブサイト【国際交流・留学】のCAの欄からオンラインで申し込める。