専修大学留学生 日本国内就職で感じた困難

日本語力重視に不安

ビザの期限がプレッシャー」

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 「日本人が書いた文章を訂正できるか」。香港出身で専修大学文学部ジャーナリズム学科を今年3月に卒業した方子柔さん(24)は、卒業前の就職活動中、広告業に関するマーケティング会社の面接で面接官からそう尋ねられた。就職活動をめぐりVIRIDISの取材に応じた3人の専修大学留学生は、コロナ禍で大学へ通うことが叶わず、日本語を使用する機会はアルバイトなどに限定された中で、日本人と同程度の日本語力を求められることに対する不安を明かした。しかも大学卒業後の留学生が就職活動をする場合、出入国在留管理庁によると、留学ビザでなく在留期間を6ヶ月とする「特定活動」ビザになる。更新は1回だけのため最長1年と期限が短いことも精神的な負担となる。方さんはビザの期限が切れるリスクを考慮し、在学中に就職したい気持ちがあったと振り返った。同大キャリア形成支援課によると、2022年度以降「特定活動」ビザ申請者は(同年2月の取材時点で)24名に上ったという。(年齢、学年は2022年11月の取材当時)

留学生が感じた日本語の壁 企業選びが鍵

 韓国出身で専修大学商学部マーケティング学科を今年3月に卒業した許京珍さん(25)は日本では就職せず、韓国で就職することを決めた。理由は、家族が韓国で暮らしていることと、日本語で仕事をするのが難しいと感じたことからだ。日本語の勉強が目的で専修大学へ入学したが、2年生以降はコロナウイルスの感染が拡大したため、2年生と3年生の間は全授業オンラインで受講し、大学に通えたのは1年生と4年生の計2年間だった。飲食店でホールスタッフのアルバイトをする中で、クレーム対応や一緒に働く人との会話に難しさを感じた。日本で就職することも視野にはあったが、「帰りたい気持ちが大きかった」と振り返った。

 「日本人が書いた文章を訂正できるか」と尋ねられ戸惑った方さんは、大学4年生の7月末、スポーツ用品を販売する日本企業へ内定した。同級生の中では内定が決まった時期が早かった方さんも、就活の難しさを味わった。就活を始めた頃に希望したのは広告会社だった。インターンシップへ参加するため書類を提出したが、全社落ちた。書類選考無しのためまず面接を受けた広告会社では、面接の最後に人事担当者から「外国人は多様な言語を話せる点は良いが、完全に日本人向けの会社だと外国人はいらない」と言われた。大手広告会社は外国人を求めているが、その他の会社は日本人向けの会社が多く、複数の言語も求められていないと考えた方さんは広告業界を諦めた。

 やりたいことができないなら、好きなことを仕事にしよう。日本の空とキャンプが好きな方さんは、キャンプ業界での就職を目指した。外国人が不在の会社は、外国人材を求めていないことが多いと考えた方さんは、既に外国人が働いている会社を探した。就活の結果アルバイトをしていた会社に内定し、スポーツ用品の販売を行っている。日本での就職を希望する留学生へ向けたアドバイスを方さんへ尋ねると、会社の説明会で「今、外国人は何人いるか」「外国人は必要か」と社員へ尋ねると良いと話した。

専修大学で就職活動を振り返る方子柔さん(24)=2022年11月30日午後4時24分、専修大学生田キャンパスで齋藤美久撮影

 習得した日本語を忘れてしまうのが勿体無いと考えたことと、母国である香港の変化が日本での就職を決めた理由だった。「私の知っている香港ではない」。香港在住の友人から話を聞くなかで、方さんはそう思う。日本で暮らして6年目を迎える方さんも、香港では黒い服の着用や「警察」「青・黄」(それぞれ中国政府と民主化運動やそれらへの支持を示すのに使われることがある色)といった発言には注意を払わなければならないと考える。可能な限りデモに繋がる会話を避け、平和に暮らしたいと思う人が多いという。服の色も自分で決められず、自分の考え方を話すことができない現在の香港を「本当の香港ではない」と話す方さん。政治について深く話したことはない。また、日本にいて何もできない自分は話さない方が良いとも思うが、こうした事情も日本で就職する一つの理由になっている。

ビザの期限がプレッシャー

 「留学ビザが切れたらという不安が大きかった」。在学中に就職しなければならないプレッシャーを感じていた方さんは、就活の不安をそう振り返った。卒業後に就職活動を行うための在留資格「特定活動」で認められる在留期間が6か月〜1年と短いことは、方さんにとって「在学中の就活完了」を目標とする原因となった。同ビザ取得に必要な就職活動の証明のため、専修大学もキャリア形成支援課の職員が既卒の留学生と活動状況の面談を行い、国際交流事務課と連携しビザを申請している。

 卒業後も一定期間、就職活動を継続することは可能。それでも、方さんは外国人にはビザの期限があり、ビザが切れる前に絶対に就職しなければならないと思った。加えてアルバイトと面接を続ける生活では、ストレスが溜まり、心が崩れる。在学中に内定をとれた方が良いと振り返った。

将来人口推計 留学生の進路状況
 国立社会保障・人口問題研究所が公表した将来人口推計によると、生産年齢人口は2070年に4535万人で、20年の7509万人から3000万人弱、40%近く減少する見込み。国内の人手不足が深刻化する中、2021年の日本学生支援機構の統計では大学に在籍した外国人留学生の国内就職率は32.7%にとどまっており、優れた人材となり得る留学生に選ばれる国となる道のりは遠い。
出典:国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来人口推計(令和5年(2023)年推計)結果の概要』
4年制大学・大学院留学生の国内就職は20-30%台。また大学(学部)、専門職学位課程、修士課程、博士課程までの合計の国内就職率は約27%だ。
出典:独立行政法人日本学生支援機構『2021(令和3)年度外国人留学生進路状況調査結果』から、2021年度中(2021年4月1日から2022年3月31日まで)に卒業(修了)した外国人留学生の進路状況調査のうち日本国内の就職状況を抜粋した

外国人職員による支援望む声も

 「日本で就職する過程がわからない」。「語学力に対する不安は非常にある」。専修大学を今年3月卒業した顧雨シンさん(23)は日本で就職活動を続ける中で取材に対し不安を語った。昨年11月から日本での就職を意識し始めた。理由は母国の中国におけるコロナウイルスの感染拡大に伴う厳しい行動制限と学歴重視の就職状況だった。中国では大学院を卒業した方が仕事を探しやすく、給料も高額だという。

 顧さんは、専修大学で就職支援を行うキャリア形成支援課を利用したことがある。就職アプリの紹介や就職準備の進め方を教えてもらったという。顧さんは同課が今後も、面接準備や履歴書を書く際の文法に誤りがないかの確認など留学生の語学面も含めた就職支援をしていくことを希望しており、「もし、外国人の先生(や外国人のキャリア形成支援課職員)がいると助かる」と感じた。外国人と日本人では、選考で尋ねられる内容も異なる。外国人の職員がいれば、外国人がどのような内容を聞かれるのか、そしてどのような就職先を探した方が良いかなど多様なアドバイスが貰えるのではないかと期待する。

取材に答えるキャリアセンター事務部キャリア形成支援課の戸津寛太さん(左)と佐々木優一さん(右)=2023年2月17日、専修大学生田キャンパスで齋藤美久撮影

 キャリア形成支援課で個別支援の一環として、外国人留学生の支援も担当した佐々木優一さん(41)=現・体育事務課=は留学生が情報を取得する難しさを指摘する。同課でも留学生の就職活動に関するガイダンスのリマインド通知を留学生に何度も送り、ガイダンス時には早めの行動を中心に話している。しかし、周知の仕方には課題が残る。InCampusで通知しても、学生が活用していない場合が多い。2022年度に専修大学に在籍した留学生は353人。ところが、日本人学生と留学生へ告知し、昨年7月にオンラインで開催した外国人留学生のためのスタートアップガイダンスへの参加者は12人。また、昨年11月に開催した就活対策講座への参加者は4人に留まった。

 同課の戸津寛太さん(30)は外国人留学生から、新卒一括採用に対する不安があるとの相談を受けた。「向こう(外国)はジョブ型採用といえば良いのか。実際にインターンとかに出て、そのまま就職していくという流れが多い。ここ(日本)はそうじゃなくて、エントリーシートを出して筆記試験をやって面接をやって、みんな同じ時期に入っていくという文化が自分の国とは違って。それに馴染めるか不安だ。と言う話を一回相談で受けました」と話した。厚生労働省が公開する資料https://www.mhlw.go.jp/content/11801000/000634510.pdfによると、新卒一括採用は日本独自の企業の募集採用習慣であるという。

 今後の支援について佐々木さんは、「外部から同課へ入る留学生の就職に関する情報をより多くの留学生へ周知したい。留学生も選択肢が広がり、希望する就職先へ行ける可能性は広がると思う」と話す。

【注】当初公開した記事ではキャリアセンター事務部キャリア形成支援課の写真キャプションの撮影年月日が「2022年2月17日」となっていましたが「2023年2月17日」の誤りでした。おわびして訂正致します。(2023年8月9日午後9時12分)