温かい給食の実現求め

長らく制度なかった横浜市中学校

市民からは「結論ありき」の声

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 中学校の全員給食制度がなく長らく懸案になっていた横浜市で、2026年度から工場で作られた給食を同市立中学校に配達するデリバリー式給食を原則全員に提供することが決まった。既存の施設だけでは全ての市立中に必要な約8万3千食のうち3万3千食分しか用意することが出来ず、供給可能率40%にとどまるうえ、その契約も2025年度で終了する。全員に提供できるよう民間の給食業者で約5万3千食を確保し、さらに約3万食の給食をつくる新たな給食センター新設の準備を進めている。一方で全生徒ができたてを食べられる給食の実現を目指す「横浜でも全員制の中学校給食が『いいね!』の会」は、全員制(原則全員への給食提供制度)は喜ばしいとしながら、学校内での調理でなくデリバリー式給食での提供は残念と打ち明け、横浜市中学校給食の議論は「結論ありき」だったのではという声も上がった。同市教育委員会事務局の給食担当者は説明不足だと述べ、「安心してもらうため」と説明に力を入れたい考えを示した。

急がれる供給量確保

 2022年12月、横浜市議会は2026年度から同市立中学校の生徒全員に「デリバリー式給食」を提供すると決めた。市は既に2021年度から、工場で作られたお弁当型の給食を開始。全員ではなく個人で必要か判断し注文するため、選択制デリバリー式給食と呼ばれる。

 現在の選択制デリバリー式給食は民間運営を行っているが、工場は川崎市、綾瀬市、大和市、相模原市にある。全ての横浜市内中学校に配送するには、これら近隣の市町村からでは昼食の時間までに配達が終わらない恐れがある。また衛生管理のためおかずを冷蔵したうえで、4時間以内に食べなければならないという事情もある。そこで新制度の給食の供給態勢づくりの二本柱として、新たな給食センターの設置と、民間企業で同市内に工場が既にあったり、建設可能だったりするところとの契約が挙げられている。全員対象のデリバリー式給食は「横浜市中期計画2022~2025」の一部として可決された。

 新たな給食センターの候補地が、横浜市金沢区にあるスポーツ施設やオフィスの複合施設の金沢産業振興センター。2023年4月27日、産業団地の組合と市職員の会議により産業団地の理解が得られ、同センターの北側1万6000平方メートルの土地を活用することに話が進んだという。当初、横浜市では北側2万平方メートルを借りる意向だったが、その土地に含まれる体育館等の施設を壊さないでほしいという産業団地勤務者や地域住民の要望から、話し合いの末体育館は残し、それ以外の土地を使うこととなった。取り壊されるグラウンドは、代替地を同市内に用意できないかと調整と検討が行われている。加えて、8月からは2026年度からの中学校給食を運営する民間企業の募集を開始している。

「なぜデリバリー?」市民の疑問

デリバリー方式給食について話す菊谷昌悟さん(2023年5月27日午後8時43分、横浜市磯子区の杉田地区センター和室)武田奈々撮影

 供給態勢の確保に奔走している横浜市だが、2015年から活動する「横浜でも全員制の中学校給食が『いいね!』の会」の人々は、問題はそこではないと口にする。同会は複数の団体と協力し、署名集めやアンケートを行っている。2026年度からはじまる中学校給食について同会の共同代表・菊谷昌吾さん(45)は「中2の娘は頼んではいるけど、やっぱり美味しくない、食べたくないという子も一定数以上いて、そんなデリバリー方式の給食が全員制となって残念」と話した。他の人々も全員制には賛成だが、デリバリー方式での提供には反対だという。高2、小6、小3の子どもをもつ父親は匿名を求めた上で「私たちも街頭でアンケートを取っているが、みんなが求めている給食っていうのは学校に給食室があって、全員で食べて出来たてで美味しくて、一般的に求めているのはそういうものなんです」と給食の在り方を述べた。

 実際にデリバリー方式の中学校給食を食べた経験のある御﨑崇恵さん(53)も「数年前ですが保温剤がごはんについていたけど、温かいではなくぬるかった。お味噌汁も同じく。これでは食べたくないよねと思いました」と当時の感想を語ってくれた。横浜市教育委員会事務局で行われた中学校給食の利用者を対象にしたアンケートでも、中学校給食をより良く変えていくために思うことに、生徒の1番多かった回答は「温かさ」53%、次は「おいしくワクワクする」48%だ。

市民に見えない議論の行方

これからの横浜市中学校給食について話し合う「横浜でも全員制の中学校給食が『いいね!』の会」メンバー(2023年5月27日午後8時45分、横浜市磯子区の杉田地区センター和室)武田奈々撮影

 そもそも2026年からの給食をデリバリー式にすることが「結論ありき」の案だったのではという疑問も出ている。

 御﨑さんは「市の取ったアンケートも、詮索すると、市がこういう結論に持っていきたいっていうのが見えてしまっている。結論ありきではなく、ゼロベースにして考えていただきたい」と話す。実際に会の他のメンバーからも「議論が本来だったら公の場でされて然るべきだが、それが見えないところでされていて、 議論の結果だけがぽんと出てくるのはどうなのだろう。結論ありきというか」などの意見が出た。供給網確保に市内の工場新設が必要とされ、民間委託するには企業側から10~20年の長期契約が求められていることも気になる。校内調理方式がどうして困難なのかの議論は不透明と感じられ、市側ははなから無理と決めてかかっているのではないかという疑念も消えない。デリバリー式給食の具体的な計画が不明なまま、民間企業との長期契約することへの不安は大きい。

市職員「まだ広報は足りていない」

 中学校給食を担当している教育委員会事務局健康教育・食育課中学校給食推進担当係長の荻久保裕大さん、三石晃司さんによると、教育委員会は市議会で決定した2026年度からのデリバリー方式による全員制給食を進めるために行動しているという。中期計画で4年間の方向性が決まり、そこに向けて力を尽くしているため、自校方式など他の供給方法をまだ考えられる段階ではないと答えた。中学校給食の在り方のアンケート結果を受け、給食の温かさは課題だという。しかし食中毒などの心配もあり、おかずを温かく提供することには難しさあると指摘、冷たくても美味しいおかずのメニュー考案に取り組むほか、レトルト食品での提供も具体的な案はまだ出ていないが検討を進めるという。
 市民へ説明不足なのではという意見に、広報担当の三石さんは「中学校広報担当は出来たばかりだが、市民の皆様のギャップを埋めるためにも広報に力を入れて取り組んでいる。新たな取り組みとして、少しでも安心していただきたく献立や栄養士の思い等様々な取り組みを見える形で発信を行っている」と述べた上で、「まだ広報は足りていない。これから中学生になる子どもたち、その保護者並びに市民の皆様に横浜で安心して過ごしてもらうため取り組んでいきたい」と、市民への情報発信に意欲を示した。