希少魚に迫る 21歳の研究

室戸沖でツキヒハナダイ観測

高知大生 過去記録の誤りも発見

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 2023年6月18日、高知県の室戸沖でツキヒハナダイという希少な魚が発見された。この魚の観測はこれが国内2例目で、それ以前は奄美大島でのみ記録されていた。世界的にみても発見されることが稀な魚で、生息範囲は水深100mより深い場所といわれている。発見したのは高知県に住む高知大学の学生、饗場空璃(あいばそらり)さん(21)だ。

自宅でサメ孵化も

 饗場さんは魚類の研究を続けており、世界でも採取されることが少なく、展示も数館のみしか行っていない希少なサメ「ナガサキトラザメ」の孵化に自宅で取り組み成功、孵化映像を撮影した。自宅での孵化例は世界初だという。世界的経済誌の米「Forbes」が毎年発表する「日本発『世界を変える30歳未満』120人」の2023年受賞者に若手研究者として選ばれてもいる。

捕獲されたツキヒハナダイ
捕獲されたツキヒハナダイ(2023年6月18日、饗場空璃さん提供)

 饗場さんは高知大学の研究チームと室戸沖で海の環境に関する研究の一環で生態調査を行うために知り合いの漁船に乗船した。そして、深海と表層の間で太陽の光が微弱であるが届く水深100m〜150mあたりの場所を目指した。饗場さんをはじめ高知大学の人々が研究をしている場所である。本来この場所はキンメダイやアカムツなどの食用の大型魚を獲るための漁法しか基本的には行われない場所である。ここで通常行わない小型の魚を狙うような釣りを行ったことが功を奏し、今回の発見に至ったというのだ。

 「実際に見るのは初めてですので、釣り上げた時はとてもうれしかったです。完全に偶然の発見で、他の人がやらないような釣りをした結果だと思うし、今後も同じような釣りをすれば発見されると思う」と饗場さんは語る。2008年に奄美大島で観測された個体は一匹のみで、これはたまたま観測されただけであり普段生息していることを示すわけではないという見方がこれまであった。しかし、今回の発見により奄美大島での発見は偶然ではないという見方を強めることにもなった。

生息範囲の拡大から見える温暖化

深海魚が水揚げされる港で、専門とする魚類の水揚げに同行した饗場さん(2024/4/19、2時23分)、高知県高知市御畳瀬漁港=饗場さん提供

 饗場さんがツキヒハナダイを発見してから少し遅れて、饗場さんのもとに和歌山県からもツキヒハナダイが届いた。饗場さんは常日頃から各地の漁師との交流を深め、珍しい魚が獲れたら送ってもらうルートを作っていた中で送られてきたのだ。送ってきた和歌山県の漁師は偶然獲った魚で種類がわからないまま饗場さんに送り、饗場さんが調べるとツキヒハナダイだったという。

 この二つの発見から饗場さんは、ツキヒハナダイの分布の北限記録が更新されツキヒハナダイの分布範囲が広がったとする論文を作成し発表した。饗場さんは「もともと南の暖かい地域に生息する魚が、和歌山県まで生息範囲を広げているのは、地球温暖化の影響の可能性もあると考えられる」と指摘した。

過去の記録に誤り

高知市で開かれたトークショー「魚を探して獲って研究する」に登壇し、高知県のNPO法人や生物関係者に向け高知県の魚類と自らの活動を紹介する饗場さん(2023年12月2日午前11時30分、高知市文化プラザかるぽーと)=饗場さん提供

 実は、このツキヒハナダイは1959年に高知県で観測されたという記録があった。そうであれば、高知での観測は既に先例があったことになる。そのため饗場さんは、1959年に高知で捕獲された魚の標本を確認し、本当にツキヒハナダイであるかどうかを調べた。その結果、これはカワリハナダイといわれる別の魚であることが判明した。今回の発見がきっかけとなり、過去の誤った記録が見直された。

 ツキヒハナダイでなくカワリハナダイだと判断した根拠はしりびれの大きさだった。高知大学に保管されていた1959年捕獲の標本はしりびれの大きさが体長の35.2%だったが、カワリハナダイでは34.0-39.0%、 ツキヒハナダイでは26.6-32.6%であることから、このため、標本は誤っていると判断した。
「非常に古い記録であるため、このような誤りはしょうがない。標本を調べる前は、今回の発見がなんでもない事になるかと思って少しドキドキしました。」と饗場さんは笑いながら話した。