茨城県茨城町 野犬増加が問題に

農作物、家畜に被害 小中学校は警戒

「生かす場所を」と保護し人に慣れさせ譲渡目指すNPOも

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 茨城県茨城町で野犬の増加が問題になっている。県動物指導センターによると、茨城町から収容された野犬の数は、2022年度の124頭から23年度では239頭にほぼ倍増している。同じく野犬保護の多い小美玉市は2022年度の90頭から23年度では92頭で横ばい。笠間市は2022年度の70頭から23年度では53頭と減少しており茨城町の増加が際立つ。茨城町みどり環境課によると野犬によって農作物を荒らされ、家畜の餌や家畜がかまれる事案が発生している。近隣住民の一人はVIRIDISの取材に、林で4、5匹が道路に飛び出し、車にひかれているのを見たことがあると話した。ほかの近隣住民の一人からは狂犬病などを心配する声が上がった。茨城町みどり環境課によると咬傷事案などは現在確認されておらず、小中学校では回覧やメール配信等で注意を呼びかける。茨城町は県と協力し、町内複数個所に捕獲箱を設置し捕獲を進め、また野犬に遭遇した際の注意喚起も行っている。一方、動物愛護に取り組むNPOは「生かす場所が必要」と、捕獲された野犬をシェルターで預かり、人に慣れさせて譲渡に結びつけようと奮闘する。

「捕まえたいけど限界がある」

茨城町の畜産業廣澤一浩さんが自費で設置した焼却炉(廣澤さん提供)

 「小さい子豚が狙われてかみ殺される」。茨城町で畜産業を営む廣澤一浩さん(62)は、育てている子豚30頭が、去年の末から今年にかけて野犬により死亡したと証言した。人がいない夜に野犬の群れが10匹ほどやってきて小さい子豚が狙われた。被害額は約100万円だという。野犬の侵入を防ぐためフェンスを2重にする対策をし、わなの一種である捕獲箱も設置している。

 この日も訪れると野犬が3匹捕獲されていた。下穴を掘って侵入してきた場合には、その通り道に捕獲箱を置くようにしている。しかし「それでも場所を変えないと次は入らない」と話した。「この近くにあった養鶏場が廃業しちゃって、多分ね、(それまで野犬は)そっち側にいたのかと思うんだけど、また新しい餌をもとめてこっちにきたのかな」。7、8年前から野犬を目撃していたが、以前は家畜が襲われることはなく、去年の末から家畜に被害が出たのだという。この地域は林が多いため、そこが野犬の住みかとなり繁殖しやすい環境になっている。廣澤さんによると以前は亡くなった豚を(埋葬して)土壌に返していたが、野犬が掘り起こしてしまうため、自費で焼却炉を買い、亡くなった豚をその日に焼却する対策を取るようにしたと話す。野犬の増加問題に対しては「役所や指導センターとも相談しているけど、具体的な解決策は見えてこない」。野犬を傷つけないように捕獲するためにも捕獲箱を使用しているが、一度捕獲した場所では野犬が学んで捕獲できなくなることや、人が中に入れないような林が多く捕獲箱以外での捕獲方法は今のところなく限界があると話す。

保護された野犬が管理される動物指導センター(茨城県笠間市、2024年6月5日午後0時半ごろ)片岡七海撮影

 保護された野犬は、動物指導センターで管理される。2024年6月20日時点でのセンター発表の成犬収容頭数データによると147頭のうち58頭は茨城町から来ており、各自治体中最多で、全体の3分の1を占めている。動物指導センターでは、病気の有無や性格に合わせ、1匹だけを収容する檻や、大部屋の檻を使い分けて管理している。

 これに対し、認定NPO法人動物愛護を考える茨城県民ネットワークCAPINの鶴田理事長は、全ての犬を個別で管理するべきだと訴えている。「犬は人間と同じで社会的な生き物、集団になるといじめもあるし、強いものが弱いものを従える。個別管理っていうのがとても大事」と話す。

CRPにより指導センターから出される犬の「いなさ」 (茨城県笠間市、2024年6月5日午後0時半ごろ)片岡七海撮影

野犬保護 ボランティアの決意

 野犬を保護して、人に慣れさせ、譲渡につなげることは簡単ではない。capin では、センターからこの5年間で約600匹を引き取った。一部その途中に死亡した場合もあるが、 現在は約150匹の面倒をみている。鶴田理事長(60)によると成犬まで人とかかわらずに育ってしまうと警戒心を解くのに時間がかかりそれにくわえブランド犬や小型犬であれば、引き取りに興味を示す人が多いが、雑種で中型犬以上であると、譲渡につながることはなかなか難しいと話し、鶴田理事長は「一生面倒を見る覚悟で引き取っている」と語った。見に来てもなかなか家族として迎えようとする人は少ない。もともと野犬だったり、咬み犬だったりするからしょうがない。だから私は(CAPINのような)シェルターは必要だと思う。殺処分を茨城のようなところで止めるためには、やっぱり生かす場所っていうのは必要だからね」と話した。
 CAPINはレスキューペアレント(CRP)という制度を設けている。実際に自宅では飼えない人も、動物指導センターから犬を選び、CAPINシェルターに入れ、そこからいわば犬の「あしながおじさん」としてその犬にかかる医療費、飼育費(月1万円)を負担し、その犬が里親に譲渡されるまで、あるいは亡くなるまで、支えていくシステムだ。このほか一定の期間自宅で預かるボランティアもある。
 こうした犬たちに里親が見つかるための鍵として「子犬のうちから人慣れすることで譲渡の可能性が広がる」と鶴田理事長は話した。