「検診はしご」で乳がん発見

母の思い胸にがん啓発

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 話題づくりにと「検診のはしご」を試みたところ、偶然乳がんが見つかった−−。滋賀県在住の塾講師、岸本真弓さん(50)は、昨年、自身の乳がん発覚から克服までを記した電子書籍を出版し、現在は講演家としても活動している。新型コロナウイルスの影響によりがん検診受診者が減少傾向であり、がん啓発活動も難しいという状況の中、抗がん剤治療をしながら働いた経験を踏まえ、がん検診の積極的な受診を訴えている。活動を支えるのは、同じく乳がんを患った母への思いだ。

面白いかな…と「はしご」の予約

取材に答える岸本真弓さん(2021年6月10日、zoomインタビュー画面)丸澤海撮影

「本当に偶然見つかった」

 2014年9月、当時43歳だった岸本さんが検診に行くきっかけとなったのは、腰の痛みを強く感じたことだった。知り合いで腰の痛みから子宮頸がんになった人がいたことを思い出し、近くの病院で子宮頸がん検診を受けることになった。その後時間が余るため、がん検診のはしごをしてきたという話をしたら面白いかなという理由で、その日に乳がん検診の予約をした。

「自分のモットーとして目の前にいる人を笑顔にしたいということがあったのがよかった」

 思いつきの行動だったが、この「検診のはしご」をするという考え方が広まってほしいと岸本さんは言う。自身の母親が乳がんになっていたため、岸本さんも行かなければという意識はあったものの、仕事が忙しく、面倒に感じてそれまで受診を避けていたそうだ。国立がん研究センターがん情報サービスによると、乳がん検診が推奨されるのは40歳以上の症状のない女性で、2年に1度定期的に受診するよう呼びかけられている。

同じ乳がんを患った母の思い

 乳がん闘病中の経験を出版したのは、自身と同じく乳がんを患った母の影響が大きい。

 「母ががん再発で入院時、自分は大学生だった。母が本の広告宣伝を見て、がんの人が書いたから読みたい、買ってきてほしいと言われたが見つからず、届けられなかった。当時の母の気持ちを考えてみると、なんとか気持ちを保とうと、がんの人が書いた本が読みたいと思ったのかもしれない。それを届けられなかったのは後悔している。自分の本が同じがん患者に気持ちを切り替えるきっかけになるかもしれない、一時的でも効果があれば嬉しい」

岸本真弓さんが出版した『PLAN-B: 人生の再挑戦=「PLAN-B」は いつからでもスタートできる!』(アイカラーズ出版)

 2020年11月にアイカラーズ出版から乳がんから克服までを記した『PLAN-B』を出版した。

 講演家としても活動する岸本さんだが、講演をするときいつも何を誰に伝えようかを考えるため、自分の意識を自ら探る「内観」をする。本の出版を決断したことに、母の影響を受けていることが分かったのはその時だったという。

 機微に触れることもある乳がん闘病中の内容を公表する理由については「他人からどう思われているかを気にしていたから公表を拒んでいた。しかしそうして生きていたら小さいことしかできない、やりたいことが出来ないと思った」と述べた。

副作用の「波」つかみ働く

 抗がん剤治療のつらさは個人差があるが、岸本さんには波があった。1週間に1回抗がん剤治療を続けていると、3日目がつらさのピークということが分かり、そのピークが仕事のない土日にくるように設定した。

 こうした工夫は、仕事をしながら抗がん剤治療をする患者にとって生活の質を左右する。岸本さんの場合、抗がん剤治療をはじめた入院時は安静だったが、退院後は起きて生活する中で、副作用によるつらさが倍増した。抗がん剤治療だけでなく、放射線治療を毎日していた時期は起き上がれないくらいのつらさだったという。

 「とにかくしんどかったが、吐き気止めを打てば、なんとか仕事をすることができた。仕事しているときはあまり痛みを感じなかった。逆に家でじっとしているときが一番しんどく、仕事があってよかった」と語る。

つらさのピークが分かっても、抗がん剤を打ちながら働く人は多く、治療の予定を組み立てるのは容易ではない。

がん啓発に必要なのは「臨場感」

がん啓発の講演をする岸本真弓さん(2020年12月12日、滋賀県彦根市)岸本さん提供

 「一番効果を感じたのは、塾の個人面談。がん発覚直後の臨場感のまま話したら、みんな検診に行った。」

 がん検診を広める講演が終わったあと、アンケートやFacebookなどでリアクションをもらう。ただ効果を実際強く感じたのは講演会ではなく、塾の個人面談だった。

 「結局周りの人、身近な人、知っている人がそういうことになったということで検診が広まるのではないかと感じた」と話す。

 岸本さんは今年、乳がんにおける正しい知識を身に着け、検診の重要性や早期発見の大切さなどを広めるピンクリボンアドバイザーがん認定講師という資格を取り、小学校や中学校などで講演が出来るようになったが、いまだ新型コロナウイルスの影響で実現していない。学校での講演に期待している。がんを身近に感じる講演場所としては、保護者がいかなければならない状況での学校の授業が一番なのではないかと語った。

 コロナ禍の検診を避ける人が多いことについて「(感染リスクを巡り)メディアに惑わされ過ぎているような気がする。自分視点で考えることが大事。緊急事態宣言が出ているときは避けるべきかもしれないが、定期的に行くべきだ」と述べた。