それでも自分らしく「かわいい」を

SNSがあるからこそ表現できる

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 美容専門学校に通うたけたろうさん(19)=本名非公開=は赤や黄色、青など鮮やかな色のポップで個性的なメイクアップをインスタグラムに投稿し、性別を超えたメイクを楽しむ様子を積極的に公開している。常に「かわいい」を求めて研究を続け、自分の「かわいい」要素をSNSに詰め込んで、真似されるよう励んでいるという。ジェンダーレスやユニセックスといった言葉がよく聞かれ、ファッション業界では性別を超えたスタイルが主流化しつつある中でも、男性がメイクをすることはまだ女性のメイクほど一般的ではない。たけたろうさんも周囲から否定的な視線を感じた経験があるという。すべての人に受け入れられるわけではなくても、インスタグラム、ティックトック、ユーチューブなどSNSを通じて「かわいい」と「自分らしさ」とを追求することをあきらめなかった。

「盛りたい」気持ち

 もともと女性の友人が多く、放課後にプリクラ(プリント倶楽部)や写真を撮る機会が自然にあったという。
 「メイクは高校1年生から始めました。女子の友達とプリクラ撮りに行ったときや、写真を撮った時に自分が『盛れていない』と感じたのがきっかけでした。メイクをしたら『盛れる』かもと思ってメイクをするようになりましたね」と振り返る。「盛る」とは普段よりも可愛いらしく自分のことを見せることだ。
誰でも自分の見た目が気になったり、コンプレックスを強く感じるようになったりしてしまう中高生の時期。たけたろうさんもまた自分をもっと「盛りたい」と思った。それがメイクの道に進むきっかけになった。

たけたろうさんのインスタグラム(@taketaroutime)から

コロナ禍、せっかくなら発信しよう

 自身のインスタグラムにはたくさんのメイクアップを投稿しているたけたろうさん。まぶたを空のような青色と銀色に彩り、そこから滴る大粒の涙が描かれたメイク、パステルカラーやビビットカラーで彩られ、ファンシーで幻想的な雰囲気のあるメイク写真が何枚も載せられている。たけたろうさんがこのようにSNSでメイクを発信するきっかけは何だったのだろうか。
 「自分の中での美容学生はキラキラしていて楽しそうなイメージで、でも実際は新型コロナウイルスの影響で学校での授業がオンラインになってイメージと全然違うし、学校にも行けなかったんですね。せっかく美容学生なのに、せっかく美容学生になったのに、このまま廃る(大事な時期が無駄になってしまう)のもよくないと思ったんです。それならインスタグラムとかで発信しようってなったのがきっかけです」と語る。
 コロナ禍で思い描いていたキャンパスライフではなかった。それでも自分の立場だからこそ出来る自分の好きなことを、SNSで発信し始めたたけたろうさん。メイクを始めたことも、SNSで活動し始めたことも、自分の現状を変えようとするシンプルな思いだった。

メイクは悪いことじゃない

たけたろうさんのインスタグラム(@taketaroutime)から

 今の日本は、男性が美容に気を使い、さらにはメイクをするということを自然に受け入れる社会とは言えず、「女性らしさ」「男性らしさ」という偏見が自由なファッション、メイクを楽しむことを阻む。たけたろうさんも例外ではなかった。
 「自分もやっぱりメイクをすることに抵抗がないわけでもなかったです。でもりゅうちぇるさんやぺえさんがメディアに出始めたときに、そういう人もいるし自分がメイクしたって別に気にしなくてもいいと思えました。男性がメイクすることが良いと言い切れるわけではないですけど、メイクをすることが悪いことではないというのが伝わればいいなというのはありますね」
インフルエンサーとして、性別に捉われず好きなスタイルを楽しむ姿をメディアやSNSに公開している人たちの登場は、たけたろうさんにとって、自分がしたいファッションやメイクを楽しむことは間違ったことではないと確認し、新たな可能性を与えられた瞬間だったのだ。

自分が一番自分を「かわいい」と思ってあげなきゃ

 「やっぱり根本は『かわいい』を追求したいということですね。ここでの『かわいい』っていうのは他人からの評価じゃなくて、自分で『かわいい』と思うかどうかなんです」
 メイクをするうえで大切にしていることについて、たけたろうさんはこう強調する。
 「僕はメイクした自分もかわいいと思いますけど、すっぴんはすっぴんで『かわいい』と思っています。自分がやっぱり自分の事を一番『かわいい』と思ってあげられないとだめだと思います。自己肯定感をあげていくことはすごく大切ですし、そのことを意識するように気を付けています」
 周囲を気にするのではなく自分自身が自分を「かわいい」と思うこと、メイクやファッションだけでなくありのままの自分も「かわいい」と思うことは、自分を大切にするということであり、まさに自分らしく生きるということだと強く訴える。

取材に応じるたけたろうさん(2021年5月26日午後6時ごろ、zoom画面)宮瀬柊子撮影

見られたい自分に変わりたい

 たけたろうさんが堂々と自分のなりたい姿を公開するに至るまで、どのような経緯があったのか。
 「僕がメイクを始めたとき特にそうだったんですけど、自分の見た目をすごく気にしちゃうときってあるじゃないですか。そこで親によく『そんなに他人はあなたのこと見ていない』って言われました。それで逆に自分は見られたいから頑張ろうと思いました」
 たけたろうさんは『見られていない』ということを逆に『見られたい』という角度で理解した。見られていないから怠慢になるのではなく、他人に見られるくらい綺麗になりたいという堂々とした考えに変わったという。

見た目だけでなく、中身で人をみる

 メイクを受け入れてくれた人たちの大切さを感じている。
 「自分は(メイクを続けられたのは)かなり周囲の人間が受け入れてくれたということが大きいと思います。結構地元でもじろじろ見られることもありました。それでも結局仲の良い人たちが理解してくれて受け入れてくれていたから、自分の中ではよかったんです」
 自身のツイッターの投稿に対して誹謗中傷のツイートをされ、地元で問題になった時、いろいろな地域にいた友達からたくさんの反応があり、リプライをもらって元気をもらったという。ありのままを受け入れてくれる周囲の環境は、決して当たり前ではない。受け入れてくれる人たちがいるということは、たけたろうさんにとって自分らしく突き進むことに繋がった。

夢に向かって発信続ける

 「盛りたい」という気持ちから始めたメイクだったが、SNSの活動を通じ、人に真似されるくらいかわいいメイクをしたいという気持ちになった。他人の目線や評価が気になってしまうことだってある。それでもメイクをすることを楽しみ、自分がなりたい自分、「かわいい」自分を求め続け、現在も発信を続けている。そしてたけたろうさんは語る。
 「僕は最終的にコスメのプロデュースが夢なんです。そのためにSNSでメイクを発信していって、ファンの人たちにたくさん応援してもらえたらと思っています。(コスメプロデュースの夢実現のため)メイクをして発信していくことが一つの手段でもあるんですが、やっぱりメイクをすることが好きだし自分の趣味なんです。やっぱり自分の中で『かわいい』から見てほしいという思いが強いですね」