断念した校外学習、新聞博物館が引き受けた

コロナ禍、東京・豊島区立8校の中学生

来館者激減、体験ブース停止…試行錯誤の運営

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 新型コロナウイルスが子どもたちの学習環境も圧迫する中、日本新聞博物館(横浜市)は2021年秋、東京都豊島区主催の「1泊2日の横浜学習」プロジェクトに加わり、校外学習や修学旅行が中止になった中学生に記事を作成する学びを提供した。海がない豊島区の中学校が横浜で学習することで、「学校ではできない学び」を実現した。新聞博物館自体も、来館者数がコロナ禍で前年の26.2%にとどまり、体験ブースを停止したり、講演会では密状態を避けたりするなど、試行錯誤を続ける中での取り組みとなった。

「共通」の空間で学ぶ価値

 博物館は不要不急の外出となってしまうのか。新型コロナウイルスが日本で蔓延した2020年、新聞博物館の来館者数は前年の26.2%の1万1742人にとどまった。館長の尾高泉さん(57)は「文化を支える人達の取り組みを不要不急とされたことが悲しかった」と話す。

受付の棚に掛けられたコロナ対策のビニールシート(2021年11月3日正午、横浜市中区の日本新聞博物館)益岡瑞姫撮影

 新聞博物館は文化庁や神奈川県知事からの休業要請を受け、2020年2月29日から6月1日の約3か月、臨時休館を余儀なくされた。緊急事態宣言が解除され自主的に運用可能になったことで同年6月2日から博物館を開館したものの、文化庁や博物館協会が作成した感染対策基準を満たすことが求められた。そのため館内で新聞配達を体験するブースなど、何人もの人が触れるハンズオン展示は一切停止し、受付には飛沫対策としてパーテーションを設置した。さらに講演会で使うイベントルームは利用面積を倍に、収容人数を半分にして面積あたりの人数を4分の1に減らしたという。

 

 「各々の世代が異なる経路で異なるメディアやSNSから情報を得て、見たものを正しいと判断する時代になっている」と尾高館長はいう。情報を収集する媒体が異なり、受け取る情報が違うものになれば、判断も別のものになる。別の世代がどう考えているか知らないまま、偏った考え方を生むということだ。SNSで友人がつぶやいた情報から判断したり、自分が使い慣れている媒体から自分が信じたいものを見て判断したり——という別々の媒体からの情報収集は、コロナ禍においても混乱を招いたのではないか、と尾高館長はいう。
 メディアや媒体、SNSでの友人のつぶやきといった「バラバラ」な経路から情報を集める時代の中で、博物館は共通の言論空間を共有し、学び、理解し合う場所だと尾高館長は語った。

子ども会議の訴え「どうにか実現を」

 若い世代の中学生たちのため、新聞博物館が加わった「1泊2日の横浜学習」は、コロナ禍で校外学習が中止となった豊島区の中学生900人を2021年10月から11月にかけ横浜に招き、港や船の学習をした上で、記事を作成するイベントだ。全国の学校が修学旅行や校外学習を断念する中、今回受け入れを行った豊島区の8校の中学校も外での学習が中止になっていた。

取材に応じる日本新聞博物館館長の尾高泉さん(2021年11月3日正午、横浜市中区の日本新聞博物館多目的ルーム)益岡瑞姫撮影

 子どもたちは豊島区が設けた意見表明の場「としま子ども会議」で「校外学習や宿泊行事は、学校の中では学ぶことができないことが学べる重要な機会だ」と区長に訴えた。豊島区千登世橋中学校の小林豊茂校長はそのことを聞き、「どうにかして子供たちの意見を実現させたいと思った」という。代わりになる校外学習の機会を探し、豊島区にはない海の学習が出来るということで選んだのが横浜だった。

 今回参加した豊島区の8校の中学1年生は、前年、小学6年生での修学旅行もコロナ禍で中止になっている。横浜学習は久しぶりの校外学習となり、子どもたちの喜びも大きかったという。「コロナでもできることは何か、逆にコロナだからできることもあるのではないか」と小林校長は話す。

 先生たちは企画のため新聞博物館を何度も訪れて予行練習をし、博物館スタッフら多くの人々が協力した。

 新聞博物館の尾高館長もこのプロジェクトに迷いなく参加した。コロナの状況も考え、どのような工夫をして受け入れるかを考えたという。「教育に携わるとはそういうこと。子供の学びに対してコロナだからこそ守っていけるようにしなければならない」と尾高館長は語る。「一生に一度しかない」子供たちの大切な時間だからこそリアルな学びを創るために挑戦を続けるという。

なんでもプラスに

  「今後はコロナ次第だと思います。やりたいイベントや活動は山ほどあるけど、コロナ禍では思うようには出来ないので、今は温める(準備)期間として出来ることを精一杯やっています」と尾高館長は話す。

コロナの影響による延期を経て開催された企画展「ペンを止めるな!神奈川新聞130年の歩み」(2021年11月3日正午、横浜市中区の日本新聞博物館企画展示室前)益岡瑞姫撮影

 人の繋がりや連携の大切さもコロナ禍だからこそ強く感じたという。1泊2日の横浜学習に取り組んだ豊島区の校長先生たちのうち3人は、尾高館長が関わってきた新聞活用教育(NIE)にも携わっていた。新聞博物館のスタッフたちは、準備してきた学校や団体などの来館が何度直前キャンセルとなっても「必ず経験になる」とすぐ次の仕事を始め、尾高館長に刺激を与えた。「何でもプラスにとらえることが人を成長させるし、新しい仲間も増えていく」と尾高館長はいう。

 2021年12月11日と18日の「新聞協会賞受賞 記者講演会」は会場とオンライン両方で参加できる態勢で開催した。2020年11月には埼玉県草加市の生涯学習課が実施する社会教育講座において「情報とコロナと私たち」というテーマで講演し、多くの参加者の関心を集めた。全国各地の人が参加できるオンライン環境を整備したり、博物館に来てもらうだけでなく自ら地方に出向いて情報リテラシーを伝えたりなど、コロナという逆境で発見した「むしろ積極的な取り組み」のため、博物館が一体となってイベントや展示について考え続けていくと話した。

【注】当初の記事は中学校名が「千歳橋中学校」と誤った漢字表記になっておりました。正しくは「千登世橋中学校」です。おわびし訂正いたします。(3月20日午後1時)