「五感を使って命に触れる」

保護動物たちのアニマルカフェ

小学生、障がい者も交流

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 扉を開けた途端、犬たちの元気な鳴き声で出迎えられ、中庭に面した大きなガラス窓からは2匹の大きな犬がこちらを見つめている。中庭の向かい側では猫カフェで猫たちがくつろいでいる。

 「子どもからシニア、障がい者、あらゆる人々が交流するあたりまえの風景を」をコンセプトとする、横浜市青葉区のアニマルカフェ「キズナ」。オーナーの飯倉妃美子さん(56)は一人で各地を回り、犬や猫、爬虫類をカフェに引き取り保護する。カフェでは譲渡も行っており週末は譲渡の予定で埋まっている。ひどい虐待を受けた動物を多く見てきた経験から、保護した動物の譲渡にも慎重になる。飯倉さんは保護活動を「人と動物のキズナ」と呼び、地元の小学生に生活科の授業でキズナを訪れ動物たちと触れ合う機会を設けている。キズナと併設する障がい者施設の利用者にはケージの清掃や餌やりをしてもらうなど、動物たちの世話をしてもらう。動物の保護と福祉とが繋がることも目的だ。

運命感じた「3月16日」

保護されたサクラと子猫(2018年3月30日、飯倉紀美子さん宅)飯倉さん提供
川崎市麻生区の高石神社にサクラと子猫を入れ捨てられていたスーツケース(2018年3月30日、高石神社)飯倉紀美子さん提供

 キズナは1匹の野良猫との出会いから始まった。4年前、百合ヶ丘の高石神社(川崎市麻生区高石)に桜を見に行くと、1匹の猫が鳴きながら近寄ってきた。「他にも人はいたけど、物色するみたいに、ずっと伸びとかをしながら様子を窺っているようだった」。飯倉さんは「付いてきて」と訴えかけているように感じたという。付いていくと人影の少ない藪の中にスーツケースが捨ててあった。中には子猫が5匹。スーツケース内に赤黒い染みがあり、母猫はこの中で出産したようだった。身ごもったことを分かったうえでこの藪に捨てられたと思われた。

 これがきっかけとなり、かねて構想していたアニマルカフェをつくることを決意したという。桜を見に行って保護したため、母猫を「サクラ」と名付け、アニマルカフェのロゴにも桜のマークを用いた。この子猫たちの推定誕生日とキズナの土地の契約日も、飯倉さんの誕生日も3月16日だった。何かの縁でつながっている、そのような運命を感じたと話す。

表情が知らせた虐待 

アニマルカフェ「キズナ」について同事務所で話すオーナーの飯倉妃美子さん(2021年12月8日午後6時ごろ、横浜市青葉区)兼島結愛撮影

 キズナは、保護している動物を安心して譲渡するためにトライアル期間を設けている。譲渡を受けた人は毎日の様子を写真に撮り、飯倉さんに送る。表情を見て元気に生活できているかをチェックするためだ。特に犬は表情豊かで、引き取り手の問題点が判明することもある。

 そのような事態が、2度続けて起きてしまった犬もいた。その犬が初めて引き取られた時は、送られてきた写真を見てすぐに表情がおかしいと感じたと話す。引き取った家は3人家族で、娘と母親は譲渡にも前向きな姿勢だったが、飯倉さんが連絡を取って自宅を訪ねると、ドライヤーで殴るなど父親が虐待をしていた。2回目の譲渡先では、1日中ケージに閉じ込められていた。このため3度目に別の家族が引き取りたいと申請した時は、もしまた同じことが起きたらと躊躇したという。「簡単に譲渡といっても、誰でもよいわけではないから」と譲渡の難しさを嘆いた。

 保護した動物の中に、虐待されていたケースは多い。2019年2月に保護したノルウェージャンフォレストキャットの兄弟はブリーダーに虐待され、引き取られたボランティア団体でも再び虐待を受けていたという。これを知った飯倉さんは、このままでは死んでしまうと思い引き取った。2歳の成猫で、この種類であれば体重は4.5〜9キロにもかかわらず1.5キロしかなかった。体中に排せつ物が絡まり、水ももらえなかったため自分の尿を飲んでいたという。

利用される動物たち

 NPO法人JAVA(動物実験の廃止を求める会)の和崎聖子(さとこ)さん(49)は、かつて行政によって収容された犬や猫が動物実験に用いられていたこともあったが、2005年度をもってそうしたことはなくなったと話す。現在では実験に用いられる動物の多くは、実験用に飼育されたものか業者から入手したものがほとんどで、どこで生まれたかがはっきりしている。それに比べ出生が不明であることや、病気を持っている可能性がある野良猫の実験利用は考えにくいという事情もあると話す。

 それでも、同団体が訴える動物実験の廃止は化学製品が当たり前に生活の中にある状況では現実的に難しいのではないかという問いに対しては、「短時間では難しいと思います。しかし、動物実験代替法という動物を使わない実験も行われているので、広まっていけば廃止されることも難しくないと思います」と答えた。代替法にはヒトの細胞を用いるシャーレ上の実験やこれまでのデータを用いたAIでの実験などがある。莫大な費用が掛かる動物実験と異なり、低コストで行うことができる利点もあるという。

 さらに、動物実験は本来、化学物質などの人間への影響を、代わりに動物で調べる実験で、動物では大丈夫でも実際に人間に用いれば危険な副作用が出る可能性は残るなどの問題がある。そのため、そもそも違う生物で実験する動物実験の存在意義が問われていると和崎さんは話す。動物たちへの肉体的、精神的なダメージという倫理的な問題だけでなく、実験がきちんと効果的な結果を得られるかという科学的な問題でもあるということになる。

人と動物のキズナ

 「動物たちとふれあって命を大切だと感じる感覚を学ぶことで、人に対しても優しくなると思う」

 キズナの飯倉さんは、近年、教員の働き方改革によって授業以外の活動時間が削られ、小学校で生き物を飼育することが少なくなり、子供たちが動物に触れる機会が減ったと話す。近所の横浜市立山内小学校の1年生児童がキズナで動物たちとふれあう機会を提供しているのはそのためだ。「動物は言葉が話せないから、五感を使って気持ちを汲み取ろうとする力も養ってほしい」と話し、命に触れて相手の気持ちを考える力を学ぶことはいじめ防止に繋がるのではないかという。

 キズナの建物には飯倉さんが運営する障がい者施設も併設されている。対人コミュニケーションが苦手な障がいを持つ人も、動物の世話をし、触れ合うことがきっかけでまず動物に心を開くようになり、次第に人に対しても優しくなるケースがあった。また虐待により人間不信になっていた動物たちも、1日中付き添われ、世話を受けることで徐々に心を開いていくという。

 障がい者施設の利用者が動物たちと触れ合って心を開いていったように、人と動物たちが出会い、影響し合える関係を作りたいと思ったという。また、「あらゆる人々が交流するあたりまえの風景を」というカフェのコンセプトがあるように、動物とあらゆる人が関わることができる体系的な繋がりを作っていくことが活動のエネルギー源だと飯倉さんは話す。