若い世代を中心とした新規献血者の確保に全国の赤十字が苦労する中、神奈川県赤十字血液センターは、専修大学に献血バスを派遣し、経験してもらう場を作っている。川崎市も同センターや地元のサッカークラブである川崎フロンターレと協力し、年に1度、等々力陸上競技場で普及啓発イベントを開催している。献血と触れ合うことによって、身近なものと感じてもらう狙いがある。
はじめの一歩を大学で
2022年10月6日、専修大学生田キャンパス(川崎市多摩区)9号館前に神奈川県赤十字血液センターの献血バスが1台現れた。6月30日以来、同年度2回目の開催となったキャンパス内献血だ。専修大学と日本赤十字社、ライオンズクラブが協力し、9号館と同建物前の駐車場で行われた。今回、想定の45人を上回る52人が協力し、うち献血を初めてしたという学生は31人だった。神奈川県赤十字血液センター事業推進一部献血推進課主事・佐藤修博さんは「採血数の半数以上が初めての方のご協力だった。皆様、献血への関心も高く、献血の輪も広がり、素晴らしい結果だと思う」とコメントした。
佐藤さんによると、大学に献血バスを派遣する目的は、献血に行ったことのない人が行きやすい環境を作るためだという。学生にとって、献血ルームや街中のバスなどと異なり、大学はいつも来る場所で、授業の合間や友達同士で献血できる。 献血に協力した人の記念品もモバイルバッテリーや食料品といった、学生が魅力的に感じるものにして、他の場所での献血と差別化を図ったという。また、大学の学生生活課が校内での張り紙や、当日9号館5階への立て看板設置をするなど宣伝し、学生に献血への協力を大学構内各所で呼びかけた。佐藤さんは「若い方の血液が必要で、(献血は)命を守る行動だ。献血をしたことのある人が周囲の人に声がけをしてもらい、輪が広がってほしい」と若い人の献血の重要性を強調した。
普段、隙間時間に献血に行くことが多いという経営学部経営学科4年の内海心さんは「そろそろ献血に行こうと思っていた。若い人を増やすために、大学にバスが来てもらえれば、献血を身近に感じてもらえる」と話す。また、親に勧められて献血に行き始めたという経営学部デザインビジネス学科1年の寺本開さんは「注射に抵抗があるという人も多い。大学のインキャンパスや大学のGmailなどを使って宣伝すれば、献血する人が増えると思う」と語った。
バスを出せないコロナ禍
神奈川県赤十字血液センターによると、2020年度は、献血バスを配車している県内約2200箇所のうち33.7%にあたる740箇所へのバスの派遣を取りやめることになった。新型コロナウイルスの感染拡大により、緊急事態宣言が発出されたことが要因だ。外出の自粛が求められ、大学はオンライン授業、一般企業はリモートワークが普及し、バスを出す場所を失った。
神奈川県では、献血バスの拠点が新横浜と厚木の2拠点に分かれている。専修大学のある川崎市は、新横浜にある神奈川県赤十字血液センターの管轄するエリアにあたる。同センターには、7台のバスが所属しており、毎日、3〜4台のバスが各地に出張している。
今回、専修大学に派遣されたバスは、1度に最大4人の採血が可能で、1時間に12〜13人程度が協力することができる。コロナ禍でバス内での感染症対策も徹底した。変更したのは、定期的な換気、パーテーションの設置、「密」などの回避だ。バスに乗車できるのは、看護師と献血者を合わせて最大8人までと限定されている。「献血に協力してくれる人の不安を取り払うために、徹底的なコロナ対策をしている」と佐藤さんは安心して献血できる環境だと訴える。
コロナの影響で献血の予約にも変化があった。従来はルームに直接行くことがスタンダードだった。新型コロナが流行した2020年以降、献血Web会員サービス「ラブラッド(旧名、複数回献血クラブ)」や電話での予約を推奨している。「(献血会場の)三密を避け、安心で安全な献血をもっと手軽に」と佐藤さんは話す。さらに今年9月には「ラブラッド」のアプリが誕生し、今まで会場でおこなっていた問診を事前にできるようになった。会場に行くまでの電車の中などで問診をしてもらい、献血にかかる時間を短縮する目的があるという。予約をして行けば、全血献血の200mlと400mlは約1時間、成分献血の血しょう献血と血小板献血は約2時間で協力することができる。
イベントで巻き込んで
川崎市は2011年より日本赤十字社と地元のサッカーチーム・川崎フロンターレと協定を結んでいる。献血に対する理解と関心を高め、推進を目的としたイベントを3者主催で行うという内容だ 。毎年、フロンターレのホームスタジアムである川崎市立等々力陸上競技場内にあるフロンパークで催されている。2021年度のイベントには、約1000人が訪れた。献血バスも2台派遣され、89人が協力した。
3者がサッカー競技場での献血に関するイベントを開催するのには、川崎市の将来に向けた血液の安定的確保のため、若い世代の献血者を増やしたい考えがある。川崎市健康福祉局保健医療政策部医事・薬事担当の長田加絵さんは「川崎市は東京と横浜が隣にあり、若年層の人口は増加傾向にある。しかし、若い献血者数はほぼ変わらない状況」と話す。実際に年代別の献血率をみると、10代の全国平均が4.2%なのに対し、川崎市では3.6%と差がある。10代に来てもらうために、川崎市内の大学や高校へのポスターの掲出、啓発資料の配布を行い、献血への協力を促している。
川崎市はまた、献血者の育成や子育て世代が献血に協力しやすい環境を整備するとともに広報活動にも力を入れる。市内にある献血ルームのうち、川崎駅前にある「かわさきルフロン献血ルーム」が独自で保育サービスを提供しており、市は献血推進の一環として、サービスの周知に尽力している。保護者が献血をしている間、保育士の資格を持つボランティアが子どもの面倒を見るという取り組みだ。「幼少期から献血に触れ合う機会を作ることで、将来、献血に来てくれれば」と長田さんは語った。このサービスは、生後6ヶ月から小学校就学までの人が対象で、毎月第2木曜日の13時〜16時の間、事前予約制で行われている。