子育ての悩み、気軽にSOSを

負担軽減の秘訣は地域とのつながり

カギを握る「子育てヘルパー」

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 多忙な生活の中で育児に追われる日々を過ごす親たちのため、短時間の預かりや送迎など一時的な育児を引き受ける「子育てヘルパー」がいる。川崎市ふれあい子育てサポート事業のひとつで、川崎市在住の20歳以上であれば、救命救急などの実技講習を含む研修を受けてヘルパーに応募することができる。ヘルパーに子供を預ける利用会員は、川崎市内で4か月〜小学6年生までの子を持つ親が対象だ。既存の制度とは一線を画す地域と繋がる育児が進んでいる。

小さなことの手助けが大きなつながりに

取材に応じた星の子愛児園職員 左から三瓶優美さん、施設長近藤康子さん、副施設長岡本香鈴さん、片貝陽子さん (2023年6月22日午後12時36分、川崎市多摩区稲田堤の星の子愛児園)原田萌永撮影.jpg

 「行政や既存の制度に対して、子育てのSOSを出すことはハードルが高いと考える親もいる」と話すのは多摩区稲田堤の多機能型保育園「星の子愛児園」でサポート事業として、「ふれあい子育てサポートセンターSORA」の運営に携わる片貝陽子さん(68)だ。そんな親が頼ることができるのが子育てヘルパーだ。ふれあい子育てサポート事業は、利用者と同じ地域に住むヘルパーを紹介するため、地域の人に育児を手伝ってもらう意識で気軽に利用することができる。
 子育てヘルパーが担うのは、子どもの習い事や学童保育への送迎、親の病気や買い物、リフレッシュしたい時の短時間の預かりなど。ほんの小さな手助けではあるが、利用者とヘルパー双方が「お互い様」の気持ちをもつことで、地域間の子育てを実現することができると片貝さんは話した。例えば、かつて子育てヘルパーとして面倒を見た子どもが、成長してから道で声をかけてくることや、親から運動会や学芸会などの学校行事に誘われることもあるという。片貝さんは「地域で子どもや育児を見守ることは、その場限りではないつながりを生み出すんです」と語った。

「子育ては親だけでやるものではない」

 「子どもは本当に可愛い。泣こうが、怒ろうが、悪さをしようが」。子育てヘルパーの宮下敏子さん(44)は目を細めた。
 現在はヘルパーとして活動する宮下さんは、かつて自身も育児に追われ生活に余裕がなくなった経験がある。そんな時に子育て支援の一環で育児相談も行っている星の子愛児園を訪れて、職員に相談に乗ってもらったという。「職員さんに育児の辛さを打ち明けて、力になってもらったことで自分も誰かの子育ての役に立ちたいと思うようになりました。それがきっかけで自分も誰かの子育ての役に立ちたいと思いました」と力強く話した。
子育てヘルパーへの登録に特別な資格は要らないが、複数回行われる研修に参加することが義務づけられている。年齢にかかわらずどんな子供の世話も引き受けることができ、宮下さんも「幼い子の面倒を見ることができるのは大きい。3歳くらいまでは一番親の手がかかる年齢。自分も手伝いたい」と話した。
 「子どもは癒し。何をしても可愛い」。宮下さんは子育てヘルパーになって良かったと感じることをこう語る。しかし、魅力的な面ばかりではない。子どもを預かるということは命を預かるということだ。常に安全に留意し、危機管理を怠ることは決して許されない。子育てヘルパーへの登録は、救急救命士など専門家を招いた研修会に複数回参加することが義務付けられている。宮下さんも「預かるときは危険なこともあるかもしれない。危機管理は気を張る」と話した。

「知ってる人は知ってる」から、誰もが気軽に利用できるサービスへ

 問題は子育てヘルパーの不足だ。SORAを含む3事業を併設する星の子愛児園副施設長の岡本香鈴さん(51)は「現在、ヘルパーは女性が多いが、以前と比べて働く女性の割合が高くなっている。そのため、子育てヘルパーとして活動できる時間が取れない人が増え始めている。さらに、自身の習い事や趣味がある人や親の介護をする人が増えたこと、子育てヘルパーが高齢化の傾向にあることも原因」と話した。この制度では、利用者が希望する時間帯に勤務可能な子育てヘルパーがいたときのみマッチングが成立する。しかし、上記のような要因もあり円滑なマッチングが難しくなっているという。
 さらに、制度の知名度の低さも深刻だ。「本当に知ってる人は知ってるという感じ」と話す。岡本さんによると、これまでもポスティング等の広報活動を行ってきたが、効果は薄く依然として認知度は低いという。これに対し岡本さんは「子育ては地域の人にも助けてもらえるということを発信している」と話す。子育てヘルパーの宮下さんも「子育てヘルパーになることは命を預かる責任もあるが、ぜひトライしてみてほしい」と語った。

地域と親子を繋ぐ場所 親にとってもリフレッシュに

地域子育て支援センター「宙」(2023年6月22日 午後12時38分、川崎市多摩区稲田堤の星の子愛児園内)原田萌永撮影

 もうひとつの子育て支援に、星の子愛児園内の「地域子育て支援センター宙(そら)」がある。こちらは親子のためのフリースペースで川崎市在住であればだれでも利用できる。職員の三瓶優美さん(40)は「ここに来たら地域に住む誰かと会うことができる。地域と親子を繋ぐ場所だ」と笑顔を見せた。宙を利用する下田佑貴子さん(38)は「月齢の近い子と接することは子どもにとって良い刺激になる。広い場所で思い切り遊ばせられるので助かる」と話した。同じく利用者の林諒さん(29)は「親にとっても良い息抜きになる。同じくらいの月齢の子どもを持つ親の子どもへの接し方を見て勉強する機会にもなる」と語った。取材に答えた親は7人全員皆が「良い気分転換になっている」と口をそろえた。
 子育てヘルパーを利用する際は、基本は子育てヘルパーの自宅が預かり場所だが、昨年10月、国の制度が変わり地域子育て支援センターや子ども文化センターでも預かりが可能になった。それに伴い、宙を預かり場所として子育てヘルパーに子供を預けることもできるようになった。子育てヘルパーの活躍の場が増えることになりそうだ。