未来変える「マイ争点」

若年層の低投票率目立つ

主権者教育拡充へ取り組みも

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 選挙に参加しない若者が増えていることが問題になっている。今年4月投開票の統一地方選挙では、市長選以外の各種選挙で平均投票率が過去最低を記録するなど、下降傾向がはっきりと出た。中でも年代別投票率をみると、4月9日投開票の道府県議会議員選挙の投票率が18・19歳は22.7%、20代が25.6%(最高は70歳以上の68.7%)、同23日の市区町村議会議員選挙では18・19歳が17.9%、20代が21.7%(最高は70歳以上の62.0%)で、特に若い世代の投票率が低くなっている。このような傾向を改善するため、神奈川県では学生による選挙啓発活動や出前授業による主権者教育が行われている。これに取り組む専門家は、若者が社会の未来をよりよく変えるため、自分の関心ある争点、いわば「マイ争点」を持つよう提案している。

課題解消へ、「かながわ選挙カレッジ」の活動

 昨年12月8日、神奈川県本庁舎で大学生6人と選挙管理委員会委員との意見交換が行われた。選管委員側は「選挙公報を各世帯に配布することで、ある程度候補者の情報を伝えることができている」と思っていたが、学生側から「学生は家に届く紙媒体のものはなかなか読まない」や「インスタグラムやティックトックのような、若者ユーザーの多いSNSを利用したほうがいいのではないか」といった意見が出たことで、世代間でギャップがあることを認識する貴重な機会になったという。
 意見交換した大学生は「かながわ選挙カレッジ」に所属するメンバーだ。これは神奈川県明るい選挙推進協議会が運営し、神奈川県内の大学に所属している学生が実習生となって行われる啓発活動で、例年、高校への出前授業や模擬投票を通じ、選挙への関心拡大を図っている。同協議会事務局の沼澤駿斗さんは「(18歳、19歳にまだ選挙権がなかった時代に)20歳になって投票ができるようになったときに何も知らないという状態ではなく、選挙に対して少しでも理解を深めてもらいたい、という気持ちからこういった活動を始めた」と取り組みの意図を語った。
 この活動は若年層の低投票率を改善する対策として2007年に始まった。学生たちに選挙事務、選挙啓発への理解を深めてもらうと同時に、政治参加や選挙・投票の重要性を知って同世代の人たちに広めて欲しい、という思いから参加型教育の場を設けている。2023年は4人がカレッジ実習生として活動を行っている。

なぜ?若者が選挙に参加しないといけない理由

慶応大学SFC上席研究所所員の西野偉彦さん(2023年7月24日午後4時38分、zoom(オンライン)会議上 伊藤順稀撮影)

 そもそもなぜ若者の投票率が低いのか。慶応大学SFC研究所上席所員の西野偉彦さんは、「若い世代は必ずしも政治に関心が乏しい訳ではない。投票率が低い=政治に関心がないということではなく、どこに、どういう基準で投票したらいいのかが十分に分からないから投票に行かない可能性もある」と見ている。投票に行こう、と思い立ったとしても、誰に入れれば、どの政党に入れれば自分にとって得になるのか見当がつかず、結局参加しないで終わってしまう。
その他にも、一人暮らしをしている学生は地元から住民票を移すことが手間になることや投票所に行くことが面倒に感じることなど、様々な要因が考えられるという。
 若者が選挙に参加しない状態が続くとどうなってしまうのか。西野さんは「世代ごとのバランスが取れた政治になりづらくなってしまう。少子高齢化が進んでいる中、シルバーデモクラシーによって教育や奨学金の問題など、自分たちにとって身近な政策の優先度が下がり、後回しにされてしまう恐れがある。さらに地域単位で考えれば、選挙は町づくり・未来づくりの一環である大事なファクター。参加するかしないかがその地域の存続に関わってくる」と語る。自分たちが暮らしやすい社会を創るためにも、投票に行って意思を示すことは重要なのだ。

問われる学校教育の重要性

 神奈川県教育委員会で政治的な教養を育む主権者教育に関する座長も務める西野さんは、全国の小、中、高等学校から依頼を受け、主権者教育に関する講演や実践授業を10年以上前から行っている。「公民科の授業で政治の仕組みについては勉強するが、議会で何が議論されているのか、政権公約は何なのかといった政治の中身まで学ぶ機会は少ない。若者が政治について考えられるチャンネルを増やすような教育を日本で作っていくべきではないか」と感じたことがきっかけとなり、政治と教育を結びつける取り組みに尽力している。
 大切なのは、社会の課題を他人事とせず、自分のこととして考えることだという。西野さんはその方法として、「マイ争点」という考え方を提唱している。これは自分が関心のある争点を見つけてそれがなぜ争点になっているのか、何が問題なのかを深掘りするというもの。その分野に重点的に取り組もうとしている候補者や政党が分かり、自分なりの投票先が明確になる効果が期待される。
 また、「マイ争点」は主権者教育をその日限りのイベント的な講義に終わらせてしまうのではなく、日常的に、継続的に続けることができる形を意識したものだ。授業の形も、様々な業務がある学校教員の負担にならないよう、授業1コマの中で完結することを意識するほか、政治的中立性にも目配りし学校側の事情を考慮したフォーマットとしている。
 実際に西野さんが高校生向けに行っている出前授業は、最初に18歳選挙権の意義と背景、主権者教育の国内外の事例についてのミニ講義、次に「マイ争点」を用いた主権者教育の体験コーナーを行う。2023年2月7日に明星高校で行われた講演(出典:西野さんの公式ウェブサイト)3年連続!明星高校(東京)で「主権者教育」講演会|18歳選挙権&主権者教育の専門家西野偉彦(takehikonishino.net)では、全体のテーマ「18歳選挙権って何だろう?~体験!主権者教育~」に合わせ、その中で自分が大切だと思うポイントについてワークシートを用いて考える形式を取っていた。そして最後に質疑応答で終了といった構成になっている。
 西野さんが依頼を受けて授業を行った学校では、教員が「思った以上に生徒たちが積極的に反応していた」「自校の生徒たちがこんなに政治に関心があるとは思わなかった」という感想を述べることが非常に多いという。