吃音症 隠さない世の中へ

多くの人が知り、支えて

成人100人に1人、打ち明けづらさ抱え

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 吃音症は、成人の約100人に1人にある障害である。どもってしまい、周りの人に笑われたり、馬鹿にされたりした経験のため、正面から吃音であることを打ち明けることができない人が多い。多くの人が吃音について知らないため、周りに助けを呼ぶことや、カミングアウトをすることができない。どもることも当たり前の環境、吃音症であることを隠す必要がない社会を目指すためには、多くの人が吃音を知ることから始まると、当事者たちは訴えている。

生徒会長経験 次は支える立場

コンアニマについて話す喜多龍之祐さん(2023年5月29日午後6時32分、東京都世田谷区)内田榛平撮影

 「ちゃんと吃音をカミングアウトすることで馬鹿にされることもなくなった」。こう話すのは神奈川県立神奈川総合高校2年生の喜多龍之祐(きたりゅうのすけ)さん(17)。喜多さんが吃音に気付き始めたのは小学校3年生。学校で当てられた時や音読の際にどもってしまい、馬鹿にされたこともあった。吃音が理由で、小学校の時は人前に出るのが嫌だったと語る。中学2年生のとき、吃音が落ち着いていたこともあり、生徒会長をすることになった。「吃音であることを全生徒に打ち明けたい」。今後の生徒会長としての活動のためにも隠すのは嫌だと感じた。また、「このまま隠し続けるのもいいが、吃音がある人が生徒会長をしていると全生徒が知ることで、同じように吃音の人と今後の人生で触れ合う際、役立つのではないか」とも考えたと話す。担任の先生のサポートもあり、全生徒に打ち明けることにした。それ以降は、全校集会でいくらどもっても全員が真剣な眼差しで話を聞いてくれるようになった。

 喜多さんを変えた経験はもう一つある。「注文に時間がかかるカフェ」という企画への参加だ。これは「接客業に挑戦したくても吃音があって一歩踏み出せない若者へ勇気を」がコンセプトの一日限定カフェで、全国の様々な会場で開かれ、吃音の人たちがカフェ店員となる。「自分の吃音に対するイメージが変わった。次は吃音で悩んでいる人を支えてもらう立場から支える立場に回りたい」。

 そこで今年4月に立ち上げたのが、コンアニマという音楽団体だ。コンアニマは吃音を持った中高生による音楽団体だ。音楽だとどもることもなく、音にのせてありのままの自分を伝えられるため、音楽団体を設立したと語る。喜多さんが参加した「注文に時間がかかるカフェ」のように明るく、アットホームな雰囲気の空間にしたい。また、「ゆくゆくは吃音の苦しみなどを詩のようにして、オリジナルソングを作り、同じ吃音で悩む当事者の方が聞いて勇気を貰えるようなものを作りたい」。喜多さんは笑顔で話した。

 これから吃音をより理解してもらう社会になるには「吃音は、骨折や怪我などとは違い、一目見ただけではわからない。だからこそ、サポートをしにくい。そのため、吃音であるから夢を諦めてしまう社会ではなく、実現できる世の中になってほしい」と未来への希望を述べた。

研究生かし 悩み打ち明ける場に

ツクスタを設立した青木瑞樹代表(2023年6月2日午後2時52分、茨城県つくば市の筑波大学筑波キャンパス)内田榛平撮影

 筑波大学(茨城県つくば市)の公認団体「筑波大吃音会-ツクスタ」代表の筑波大学大学院博士後期課程1年、青木瑞樹さん(24)はツクスタ設立のきっかけを振り返っていう。「ツクスタを作ろうと思ったのは、筑波大学は吃音を学ぶ場として環境が整っているのに吃音者の居場所がない。私自身が吃音者であり、また大学で学ぶ専門が吃音であったので、分かる人が居場所を作る方が早いと思った。もしかしたら、自分自身がコミュニティー、繋がりや仲間が欲しかったのかもしれない」。笑顔を時折交えながら話した。

 青木さんは筑波大学大学院で成人の吃音の心理面を研究している。「吃音は大人になるにつれて、吃音の言語の部分の重症度とは関係なく、他の人が、社会がどう思っているかなど、吃音の問題が心の部分に変わってくる」と話す。一見話していて吃音が出ていないと、症状は軽いように見えるかもしれないが、心理面は重症であるかもしれない。そのため、言語と心理面をセット考えていく必要がある。「吃音で気持ちがどれだけ変動しても、周りが理解ある環境があり続けることに一番意味がある。ツクスタは参加者に嫌なことがあったり、いいことがあったりしても、その場所さえあれば、とりあえず行けば安心できるという環境であり続けたい」と答えた。

 ツクスタはセルフヘルプグループと流暢性障害研究会の主に2つの活動を行っている。流暢性障害研究会は誰でも参加できるが、セルフヘルプグループでは、吃音当事者だけが参加できるようにしている。当事者だけにする理由として青木さんは「吃音という同じ共通点を持っている人たちだけとすることで、言いたいことが言えて、聞いている相手もそれを分かってくれる環境ができる。そうすることで参加する人が安心できる居場所になる」。吃音者が参加しやすい環境作りをすることで、自身の吃音を見つめる一歩目を踏み出すことに繋がる。

ツクスタの活動(2023年6月21日午後8時20分、茨城県つくば市の筑波大学筑波キャンパス)内田榛平撮影

 ツクスタの参加者は大学生や20代が大多数を占める。学会の発表やプレゼン、就活など大学生ならではの吃音の悩みを口にする人が多い。6月21日、つくば市天王台の筑波大学筑波キャンパス。セルフヘルプグループの会合に、学内、学外含めて14人が参加した。誰もが参加しやすいアットホームな雰囲気で和気あいあいと話が続く。この日のお題の1つは、就活で吃音があることをカミングアウトするべきなのかどうか。「吃音であることを言った方が働きやすくなると思う。しかし、吃音をマイナスの意味で言うのではなく、吃音があってもこれはできるというプラスのこともいうべきだ」「吃音があるからといって自分自身の職業選択の幅を狭める必要はない」などの意見が飛び交った。年齢が近い人が多いからこそ、就活など吃音を抱える上での困難をどう乗り越えてきたかを聞くことができる。

どもるのも「当たり前」な環境を

 福岡県で「ことばの相談nakano」を運営する言語聴覚士の仲野里香さん(63)は世間に吃音症の理解を促すために「義務教育の間に小学校で言葉、耳、目などの障害の授業を行うのが一番早いのではないか」と話す。現在、社会の多くの人はどもると言われたらなんとなくわかるが、吃音症と言われてもどういう障害か知っている人は少ない。だからこそ、小さい頃から知っておくことで、大人になったときに吃音症の人がいても、それが当たり前の世の中になる。また、義務教育の間から吃音症などの障害の授業をすることは、先生たちが吃音の知識をつけることが必要になる。そのため、吃音で悩んでいる生徒がいても先生がサポートをすることができる、と指摘する。

言語聴覚士としてことばの相談nakanoを運営する仲野里香さん(2023年6月27日午前10時54分、zoomによるインタビュー映像)内田榛平撮影

 吃音者は話しているときに、言葉に詰まってしまったらどう思われているかを常に気にしてしまう。仲野さんは「自分の気持ちを話すのが目的であり、言葉は手段に過ぎない。嫌な体験をすると目的と手段が混在してしまい、すらすら話すのが目的になってしまっている。だからこそ、環境を整えることが必要」。つまり、どもることを気にすることがないような環境作りだ。

 そのためには「新学期の自己紹介の時に、クラス全員が得意なことと少し苦手なことセットで言うようにする。例えば逆上がりができないのと同じように、音読するのが苦手ですと言えば、吃音に対する過剰な配慮がなく、それが当たり前になるのではないか」と話す。吃音の場合、自己開示をするのを難しいと感じる人がいる。吃音があって喋りにくいのと、自己開示ができないのとは実は別の問題だ。自分自身に対してのマイナスイメージが増えていき、より吃音のことを隠したくなってしまう。そのため、吃音の自己開示する習慣を小さい頃からすることで、話している自分だけを見るのではなく、吃音があっても気にしない、どもることが当たり前の世の中になるのではないか、と仲野さんは語った。