次世代の担い手探すボランティア現場

高齢化、メンバー不足に直面

専門家「『自己利益ゼロ』求めず、生活の延長上に」

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 ボランティア活動が転換期を迎えているという。ボランティア活動の行動者は年々減少傾向にあり、ボランティア活動者の高齢化やメンバー不足が課題となっている。多くのボランティア団体では、若者を含む次の世代へのバトンの受け渡しを模索している。古民家を将来に残すため、古民家の移築・復元調査などを行なっている川崎市立日本民家園を舞台に活動するボランティア団体「炉端の会」もメンバー高齢化が進む。炉端の会会長の柴田武さんによると、29年前の活動開始以来、囲炉裏の火焚きをメインに、空いた時間でガイドや掃除、草バッタ作りなどのチーム活動を行っているが、世代交代が課題になっている。

余暇の時間でボランティアを

囲炉裏端で話をする会長の柴田さん
(写真中央 2023年11月11日14時5分、川崎市立日本民家園)中村綸撮影
囲炉裏端で話をする「炉端の会」メンバー。中央が会長の柴田武さん(2023年11月11日14時5分、川崎市多摩区枡形の川崎市立日本民家園)中村綸撮影

 火焚きは古民家の維持や保存に欠かせない作業だ。囲炉裏で火を焚き、茅葺をいぶすことで小動物や虫を追い払うことができる。炉端の会の活動は曜日ごとのチーム制で行っており、その日集まった人数によって何棟で火焚きをするかを決定している。その理由について、柴田会長は「炉端の会は自分の意思で参加する、自主性を大切にした活動です。やらなきゃという義務感などではない、そんな集まりにしたい」と答えた。また、来園者から建物について質問を受けることもあるが、「私たちはあくまでもボランティアで、プロや学芸員ではありません。分からないことは分かりませんと、きちんと言うことを心がけています」と語る。その上で、文化財やこれらの歴史について、自分なりに熱心に勉強しているメンバーも多いのだという。

 活動のやりがいについて、「仕事をリタイアすると突然居場所をなくしたような、物足りなさを感じてしまいます。余暇を有効に使うということで、ボランティアを始める会員も多いのではないかな」と話す。「(火焚きや古民家についての解説を聞いた来棟者からの)『よくわかりました。ありがとうございます』。やっぱりこの一言に尽きるね」。柴田会長は笑顔を見せた。

囲炉裏では木や葉っぱを燃やして煙を出す(2023年11月11日14時7分、川崎市立日本民家園)中村綸撮影

 炉端の会はコロナ禍は活動ができず、3年間の停止期間を経て、今年5月から活動を再開した。この活動停止期間中にモチベーションが下がってしまい「体力も無くなってきたし、活動を続けるのは難しい」と、活動を諦めてしまう会員もいたという。柴田会長によると、メンバーの年代はさまざまだが、仕事をリタイアしたことをきっかけに始める人が多いという。「会員の高齢化は避けられず、なかなか世代も変わっていきません。次の世代へのバトンタッチを考えますが、若い人ばっかりでも仕事の都合で参加したくてもできない、などの事態が考えられます。今の状態が十分でないのは事実。メンバーの維持が課題です。」と会員不足を懸念している現状を語った。

囲炉裏端での交流

 文化的価値の高い歴史的建造物を移築し、修復・保存・展示を行う東京都小金井市の江戸東京たてもの園でもボランティアの活動によって茅葺民家が守られてきた。同園のボランティアは1996年から活動を始め、30年近くの歴史がある。

煙で燻されている屋根(2023年11月2日10時53分、東京都小金井市桜町の江戸東京たてもの園)中村綸撮影

 ここでは「燻煙」と呼ぶ火焚きがやはりメインの活動で、空いた時間で園内のガイドやイベントの手伝い、自主活動を行っている。海外からの来園者も増え、全体の2割弱を占めている。英語が得意なメンバーは英語でガイドを行うこともある。囲炉裏端で行われる自主活動では、お手玉や風車作りなど、それぞれが得意なことや知識を生かした来園者との交流が行われている。

 だが、こうしたボランティア活動はコロナウィルスの影響を受けて2020年2月から休止している。現在は本格的な活動再開に向けて準備を進めている。同園広報担当の眞下祥幸さんによると、感染者数の増減と一緒に来園者数にも変化があり、去年から来園者も戻ってきて通常運営を始めたが、ボランティア活動は自粛しているという。メンバーの多くは70代で、中には90歳を超えているメンバーもいる。活動では不特定多数の人と関わることとなり、感染対策面での安全を優先し、慎重の上にも慎重を期して決断する方針ということだ。メンバーからは「いつ再開するんだい?」と活動再開を待ち望む声も届いている。

ボランティア活動の転換期

 眞下さんは、江戸東京たてもの園でのボランティアには生涯学習の場という重要な役割があると話す。貴重な文化財に囲まれた学習の場を提供する代わりに、得た知識を来園者に還元し、施設の魅力をたくさんの人に伝えてほしいという狙いがあるという。「メンバーは人と話すことが好きなフレンドリーな方が多く、来園者に『ありがとう』と言われることにやりがいを感じています。活動をずっと続けてくれる人が多いんですよ」と、眞下さんは笑顔を交えながら話した。

江戸時代後期の武士団の家、八王子千人同心組頭の家のかまどで火を焚いている様子(2023年11月2日10時53分、江戸東京たてもの園)中村綸撮影

 しかし、そんなボランティア活動は転換期を迎えているという。1995年に発生した阪神淡路大震災でボランティア熱が高まり、その機運に乗るような形で、江戸東京たてもの園でもボランティア活動が始まった。当時はバブル崩壊後ではあったが、まだ老後に余裕がある人も多く、その選択肢の一つにボランティア活動があった。しかし、今は、長寿化が進み、「老後の生活に2000万円がかかる」との見方も示されたいわゆる老後2000万円問題などがあるように、老後も働き続け、仕事に時間を費やす人が増えている。眞下さんは「ボランティア活動の曲がり角に来ているような感じがあると思う」と語った。

 ボランティア活動について研究を行なっている、東京大学教授仁平典宏さんは次のように話す。「今までのボランティア活動の担い手は団塊の世代と呼ばれる人々で、人口も多く、若い頃に学生運動に取り組むなど割とアクティブな人が多い。定年を迎え自分の時間ができたときに、地域の課題を解決しようと考えて頑張ってくれる60歳以上の人たちに支えられてきたという背景があった。ところが、これらの人たちが後期高齢者になってくると、体を悪くするなどしてボランティアに参加することが難しくなる。これまで回してくれていた人たちがごっそり抜けていくのがこの先。心配なのは団塊の世代が後期高齢者に差し掛かったこれからだと思う」

「私利私欲」の生活延長上にあるのが自然

取材に応える東京大学大学院教育学研究科比較教育社会学コースの仁平典宏教授(2023年12月16日午前9時23分、zoomによるインタビュー映像)中村綸撮影

 仁平さんは、日本人はボランティア活動に対して、「無関心かつシニカルにみる」と話す。海外ではボランティア活動をしてきたということが、就活などでアピールポイントになるが、日本ではストレートに評価されることはなく、また、日本ではボランティア活動を非常に「清廉潔白」なものとしてみなしがちであると指摘する。「欧米などでは、自分の履歴書をよくするためにボランティア活動をしているということを普通に言えるが、日本は聖人君子がやるものといった意識がある。ボランティア活動が身近ではなかったため『やっている人はさぞかし立派で特別な人なんだろう。自分みたいな普通の人にはできないな』と0か1になってしまう」。そして、このような日本人のボランティアに対する意識について、「ボランティアをする人が『偽善者』『自己満足』だと非難を受けことがあるが、これらの言葉の背景には『ボランティアは自己利益がゼロでなくてはいけない』という間違った認識がある」と話す。

 「純度100%の聖人君子もいなければ、100%私利私欲にまみれた人もいない。私利私欲を追求する生活の延長戦上に、一つのオプションとして、ボランティア活動やチャリティー活動がある方が自然で、そんな風にイメージを変えていかなくてはならない。ボランティア活動は若者から中年、高齢者までみんなで作ってきた文化。最近はクラウドファンディングなど、SNSやオンラインを使った新しい形の支援活動などが増えていて、それがバズって大きな力を生むこともある。これらを駆使した新しいロールモデルを、若い人たちに期待したい」。仁平さんは笑顔でこう語った。