DV・ハラスメントから学びの場守る

被害者の声に耳傾け

対策室の扉、常に開放

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 DV(ドメスティック・バイオレンス)は関係法令上では配偶者間の暴力を指すのに対し、恋人同士の間で起きるのが「デートDV」だ。2人の関係が対等でなくなることが発生の背景と指摘される。専修大学では、毎年、NPO法人と川崎市と協力し、デートDVに関するワークショップを開催している。実例や被害を受けている人を見かけた際の対応を、学習する場所になっている。デートDVは学びを阻害する可能性もある。大学内にあるキャンパスハラスメント対策室を中心に、学習環境を守る取り組みの一環で行われている。

学生たちに話をするNPO法人エンパワメントかながわの阿部真紀理事長 (2022年6月8日午後1時11分、専修大学生田キャンパス7号館701教室)阿部大樹撮影

デートDVの怖さ 学生への訴え

 6月8日、専修大学生田キャンパス(神奈川県川崎市)で、「デートDV予防プログラム」が行われた。経済学部杉橋やよい教授の授業内の人権教育の一環で、専修大学キャンパスハラスメント室と川崎市、「暴力のない社会の実現」を掲げるNPO法人「エンパワメントかながわ」が協力したワークショップだ。3年ぶりに対面で開催され、同授業を受講している100人以上の学生が参加した。
 デートDVは交際相手からの肉体的暴力だけではなく、精神的暴力、性的暴力、毎回のデート代の負担やお金を貢がせるなどの経済的暴力と目に見えないものも含まれ、幅広いものを意味する。「本来対等であるはずの人間同士に立場の差が生まれることが原因だ。加害者が『愛しているから』との言葉を使い、被害者は格差がないように感じる。そのため、デートDVは発覚しにくい」と、エンパワメントかながわの阿部真紀理事長は語る。交際している人間同士に生まれる格差が暴力を生む。被害者は、加害者から受け続けるものに耐え続け、さらに言葉によって被害意識を薄れさせられる。結果として、被害者は逃げる場所がなくなってしまう。「どんな理由があっても暴力を受けていい人などおらず、その人の声に耳を傾ける。暴力を受けている人に『助けてもらっていい』という考えにさせることが必要」と阿部理事長は主張する。

「NO GO TELL」を広めて

グループワークを行う学生(2022年6月8日午後1時47分、専修大学生田キャンパス7号館701教室) 阿部大樹撮影

 阿部理事長によると、DVとデートDVでは、適用される法律が異なり、加害者への刑罰の内容も異なる。DVには「配偶者暴力防止法(通称DV防止法)」により、被害者の保護が定められ、加害者への罰則も同法で決めている。しかし、配偶者の暴力に限定しているDV防止法はデートDVには適用されないため、加害者を罰するのも傷害罪や暴行罪など一般の刑法によるものの、十分な対策には至っていないという。現在の日本の法律では、暴力による身体の傷など、暴行や傷害がはっきりしてはじめてDVやデートDVとして認定される。言葉や無視、性暴力など目視することができないものは、暴力として認められにくいのが現状だという。
 デートDVでは、被害者が声を上げられずに、エスカレートしていく。阿部理事長によると、加害者は自身がデートDVをしていることに気づかない事象が多い。対等であるはずの関係が崩壊していることに気づかず、目に見えない格差が常態化する。さらに、別れた場合には、加害者が被害者に対して報復として行われる「リベンジポルノ」に発展する恐れもある。そのため、加害者が被害者を支配するようになり、被害者は逃げ場を失うことになる。阿部理事長は、「嫌だと言っていい。相手の許可なく逃げてもいい。他人の力を借りていい。この3つを『NO GO TELL』と掲げ、デートDVの撲滅を目指している」という。
 最後に阿部理事長は、「周囲が異変に気づいた時、アドバイスをするのではなく、話を聞くことがデートDVを気づかせるきっかけになる。誰かが悪いと決めつけるのではなく、被害を受けている人の話に耳を傾けることが防止への第一歩だ」と学生へ訴えた。
 このワークショップに参加した学生の1人経済学部生活環境経済学科3年の吉田新ノ助さんは「DVやデートDVに対する考えが変わった。DVは他人を傷つけるのでよくない。自分がしないのは当然だし、周りに困っている人がいたら、声を聞いてあげたい」と語った。

同僚だからとかばわない

キャンパス内のハラスメントについて話す内藤光博教授(2022年5月24日午前10時16分、専修大学生田キャンパス4号館キャンパスハラスメント対策室) 阿部大樹撮影

 「大学は学生の学ぶための場所。その場所を奪いたくない」とキャンパスハラスメント対策室室長で法学部の内藤光博教授は強調する。ハラスメントに関する相談を学生や保護者から受けると、調査が行われる。調査は、専修大学の教員、職員の各1人ずつに加えて、学外の弁護士を1人入れた合計3人で、弁護士が調査委員長になる。偏った判断を防ぐために、外からの視点を入れることによって、公平中立な機関になるという。調査の結果、相談内容が事実であると認定されれば、専修大学にある9学部から教員1人ずつ計9人、職員9人で構成される対策室委員会が設置される。そこで当該教職員や学生の処分が検討される。
「同僚の教員だからといって、かばうようなことはしない。ハラスメントから学生を守ることが我々の使命だ」と内藤教授は対策室委員会の独立性を訴える。会議後、学長に報告され、理事会で議論された後に、加害者の処分が決まる。

扉の開いているキャンパスハラスメント室(2022年5月24日午前10時16分、専修大学生田キャンパス4号館キャンパスハラスメント対策室) 阿部大樹撮影

 2022年度より専修大学は、1年生の必修授業である「専修大学入門ゼミナール」でハラスメントに関する内容を義務化した。対策室によると、ハラスメントを他人事として捉える学生が多く、学生自身が被害に遭っていることに気づかないこともあるという。教員が個人の感情で「単位をあげない」と脅す、学生が「大学に通うことが怖い」と感じるなどの事例がある。学生が「ハラスメントかもしれない。学ぶ場所がない」と感じ、いち早く発見することにつなげる狙いがある。
 生田キャンパス4号館1階にあるキャンパスハラスメント対策室。ドアが閉まっていれば、入りづらいという学生もいるかもしれない。そのため、「いつでも誰でも気軽に相談できるように」とメッセージが込められ、常にドアが開いている。