増え続ける河川ゴミと闘う

立ち上がる若者たち

団体名は「一掃計画」

1181
荒川河川敷にモザイクアートのようにできたゴミだまり(2023年6月、東京都北区荒川河川敷)増田樹さん提供

 この写真は東京都北区、荒川河川敷。モザイクアートのように広がるゴミの数々は少しずつ美しい河川を変化させている。環境省によると海洋ゴミの約8割が陸域から発生しており、陸地にあるゴミが河川を経由して海洋へ流出しているとされている。毎年増加傾向にあり、プラスチック製の包装材やペットボトルなどが多い。

「一掃計画」のイベント(2021年3月、東京都北区荒川河川敷)増田樹さん提供

 このように汚染された河川のゴミ拾いを通して環境問題へ関心を持つことの大切さを伝えようと活動している学生たちの団体がある。東京都の荒川下流の河川敷を中心にゴミ拾いイベントの企画・運営、環境教育に関わる事業に取り組んでいる一般社団法人「一掃計画」だ。

コロナ禍 有り余る時間から

ゴミを手に持つ代表の増田樹さん
(2022年3月東京都北区「子どもの水辺」付近)増田樹さん提供

 一掃計画の2人は現役大学生だ。代表の増田樹さんは中央大学理工学部都市環境学科、理事福山然生さんは帝京大学文学部史学科に通っている。新型コロナウイルスの感染拡大により、彼らの生活は大きく一変する。日本では2020年、政府の要請によって全国一斉臨時休校が敷かれ、その影響は当時高校生だった彼らにも大きなものだった。福山さんは「部活動や学業、日常生活が制限される日々を過ごした」と学生ならではの苦悩を語るとともに「コロナ禍は何かに挑戦するチャンスと考えた」と付け加えた。環境問題にこれまで興味を持っていたが、行動できていなかったことから、この機会を逃すまいと本格的にゴミ拾いを始めたという。

Googlemeetでのビデオ取材で話す理事の福山然生さん(2022年12月3日午後3時)古閑大雄撮影

 現在の活動は、一掃計画の事業の一つであるサークル活動「Cleaners」としての毎週土曜日・日曜日の日々の河川でのゴミ拾い活動。加えて、NPO法人「荒川クリーンエイドフォーラム」やクラウドファンディングの力を借りながら数ヶ月ごとに競技型ゴミ拾いイベント「トラッシュロワイヤル」を開催している。チームをいくつかに分けて河川敷のゴミを拾い、拾ったゴミの量や重さを競う。ルールは簡単でチームをいくつか作り、河川敷に多数の陣地を設定し、ゴミを見つけ、指定された陣地に運ぶだけだ。チームでゴミを集め、持ち込んだゴミの多いチームがその陣地を制圧する。多くの陣地を制圧できるかを競うゲームである。ゴミ拾いをゲーム感覚で、楽しむということを第一に活動を行っている。

「一掃計画」のイベント(2021年3月、東京都北区荒川河川敷)増田樹さん提供

環境問題解消は遊び感覚 お宝の連続

 正直なところ「遊び感覚だからこそ、ここまでやってこられた」と彼らは話す。ゴミの量を競いながら、時には汚れながらも笑いあう。楽しんでゴミ拾いをしていくうちに、他の活動メンバーとの友好関係もでき、交流の幅も広がるという。2人は「コロナ禍は負の印象が多い反面、行動次第では可能性は広がる」と希望も表した。コロナがゴミ拾いを始めたきっかけであり、それ以降宝探しのような感覚でゴミ拾いを行い、 友達を誘いながら、川にゴミを拾いに繰り出す日々が続いている。活動していると近隣の方々に「若いのに偉いね」との声をかけられることが何度もあり、楽しいと思って行っている活動が徐々に「良いことをしている」という気持ちの変化があったという。「だからこそ小さなところから環境問題を変えていかなければいけない」と率直な気持ちを表した。

自動販売機横のゴミ箱から溢れるゴミ(2023年7月、神奈川県横浜市西区高島 横浜駅付近)増田樹さん提供

 ゴミ拾いはお宝の連続だと彼らは話す。「年代物の瓶や缶、変わった形のプラスチック容器」(福山さん)など普通に生活しているだけでは出会うことのない物も多く、ゴミの分布によってその土地の歩みや排出されるゴミの傾向などがわかるという。

 例えば、住宅地や市街地に近い所は粗大ごみや家庭ごみが放置される。河川敷の近くに設置された自販機の周りには、自販機で買える飲料のためのゴミ箱しかなく、飲料と一緒に食べた食べ物のゴミは放置される。海に近い下流部は上流から軽いゴミが流れ着き、ペットボトルやプラスチック包装ごみのはきだまりのようになっている。それらが、潮の満ち引きによって海に流れて行ってしまう。「ゴミ拾いは学べることが多い」と福山さんは話した。

「投棄禁止」立て札前にゴミ投棄  

 環境省は海洋ゴミの対策をする際、海のみを清掃するだけでなく、内陸から沿岸、海洋にわたるすべてが一体となって発生抑制対策等を行うことが必要不可欠としている。また、内陸から河川を経由して海洋へ流出するプラスチック等を含むごみの量・組成等を経年的に把握するため、地方公共団体や研究機関等で活用いただくため、調査ガイドラインや事例集などを作成に努め、民間への協力なども求めている。

 特に海に近い荒川下流域では、流れ着くゴミは特に多い。そのため、定期的な巡視や投棄ゴミの撤去、注意書きの張り紙など対策を行っている。しかし、荒川下流事務局管理課長である高橋正樹さんによるとこうしたゴミは未だ後を絶たず、「ゴミ捨て禁止、不法投棄禁止」と書かれた札の前ですらゴミが投棄されており、そのような注意書きにまでも落書きをされてしまうと現状があるとした。

ゴミ箱減少は、テロ対策とゴミの一点集中化防止

 河川、街中や駅にゴミが溢れかえっているのに、なぜゴミ箱が設置されないのか。「本当になんでも捨てられてしまいます。ゴミ箱設置は河川のゴミが一点に集中してしまう事態になりかねない」と高橋管理課長は答えた。ゴミ箱がさらにゴミを引き寄せるというわけだ。そこで周りに溢れたゴミのために「また新たに対策を講じなければならない事態になる」と付け加えた。ゴミ箱の設置や増設については大型の不法投棄ゴミが後を絶たない中、ゴミ箱を設置したとしても家庭ごみが持ち込まれ、通常のゴミ処理が難しくなり、余分な負担がかかることに繋がると指摘した。さらに周辺環境の悪化につながる要因となりうるとゴミ箱設置の難しさと理由を表した。

 テロ対策もゴミ箱を置かない理由に挙げられている。国土交通省によると1995年の地下鉄サリン事件、2001年のアメリカ同時多発テロ以降、不審物を隠すことができる場所になるとして、鉄道や街中のゴミ箱の削減を呼びかけ、実際に街中や公園などでも削減されてきている。 同省の総点検の結果についても効果については、大きなテロ行為が確認されていないことから一定の効果があったとの見方を同省は示している。

 こうしたことを踏まえて荒川下流河川事務所は、現状の共有を目的にゴミマップの作成を行っており、不法投棄ゴミの分布の共有や河川利用者などからの情報を元に河川ゴミの対策を行っている。

ボランティアではない イベント感覚で楽しく

活動する「Cleaners」(2023年5月、東京都北区荒川河川敷)増田樹さん提供

 「一掃計画」の2人は「プラスチックゴミを減らしましょう、温室効果ガスを削減しましょうと声を上げることや対策、政策はとても価値のあるものだが、国の法律や自治体や施設の規則、条例を守っていれば、ゴミは溢れない。指定の場所に持っていかれ、指定の処理を受ける。本来であればゴミ拾いもやらなくても良いし、環境問題も考えなくても良い問題」と答えた。しかし、現状は異なり一歩外を歩けば日常的にゴミは落ちている。だからこそ、環境問題に対して自分達が何かをやらなければいけないという使命も同時に感じていると話した。

 「一掃計画」はホームページやインターネット上の団体紹介欄に「ボランティアではありません」と明記している。ボランティアとなると少し抵抗がある人も多く、参加をためらう人が中にはいることが理由だという。福山さんは「活動自体は正直なところ、ボランティア形式だが、ボランティアを謳うのではなく、イベント形式や交流の深めることのできるサークル形式でゴミ拾いを行うことで、ボランティアという抵抗感なく行って頂きたい」と付け加えた。