路上のゴミ、排水溝流れ海岸ゴミに

街・川など陸からが大半 清掃NPO指摘

環境悪化、水温上昇で「海底の森」打撃

1459

 神奈川県・湘南海岸に流れ着くゴミの多くは、街や道路、川から海にやってくる。そのため、路上のゴミが流れ込む排水溝は、実は海の入り口なのだという。海岸ゴミの約8割が街や川という陸のエリアから来ていると、同海岸のゴミ拾い活動に取り組むNPO法人「海さくら」は指摘する。海岸ゴミには社会の変化が現れ、清掃活動に参加した人からは「昔は紙たばこの吸い殻が多かったけれど、今は電子タバコのフィルターに変わってきている」という声があった。海さくらは最終目標に「かつて生息していた(清浄な海に住む)タツノオトシゴが戻ってくるくらいキレイにする」を掲げるが、そのために必要なアマモなどの海藻類は、海水温の上昇や富栄養化による影響、季節来遊魚による被害等が重なり、減っている。同団体は湘南海岸の江の島周辺で2005年から16年間、ビーチクリーンを続ける。社会のための活動を始めたきっかけは、沖縄で開催された「うたの日コンサート」で感じた平和のメッセージだった。

押し付けがましくなく、楽しいゴミ拾いを

海さくらのゴミ拾いに参加する人々(2021年10月23日午前10時、神奈川県藤沢市の片瀬東浜海岸)白沢真優撮影

 NPO法人海さくら理事長の古澤純一郎さん(46)は、家業である船具屋の4代目にあたる。「家業が川や海の船の道具を作っている会社だったので、生まれた時から川や海に接する機会が多かった」と話した。長女が生まれ、子供に海を綺麗な状態で残したいという思いで、16年前に海さくらを立ち上げた。

 その行動に一番大きな影響を与えたのは、沖縄のミュージシャンBEGINが出演していた、毎年沖縄で開催されている「うたの日コンサート」だ。終わった後に戦争について考えさせられた。「なんでうたの日コンサートかと言うと、戦争の時に防空壕に沖縄の人皆が隠れたりするよね。その時に小さい声で励まし合ったんだって、歌で」と古澤さんは語る。しかし今は自由に歌うことができる。戦争を体験した人がいるからこそ、今がある。そのようなキーワードが「うたの日コンサート」には隠れていた。

 古澤さんが活動を始めた頃は、「社会活動は、偽善者とか意識高い系と言われることが多かった」と言う。けれど、参加したコンサートは、「押し付けがましくなくて楽しいイベントだった」と振り返る。この影響を受け、海さくらでも「楽しいゴミ拾いを、押し付けがましくないこととして、色々やっている。途中で買い食いしても休んでも、海で遊んでもらうことも海を綺麗にすることの一つだと思っている」と話した。船具屋の息子としての体験、自分の子供が生まれたタイミング、「うたの日コンサート」に行って影響を受けたこと——これらが重なって、清掃活動が生まれた。

海岸の清掃で回収されたゴミ(2021年10月23日午前11時半、神奈川県藤沢市の片瀬東浜海岸)白沢真優撮影

排水溝は海の入り口

 雨の日は、街に落ちているたばこのフィルターや飴玉の袋などのゴミが、雨水とともに道路の横にある排水溝に落ちる。そして、排水溝に流れたゴミは、下水道を通って川から海に行く。「排水溝は海の入口ってことをみんな知らない」と古澤さんは語る。街が綺麗にならないと海も綺麗にならないのだ。古澤さんは「今、(海にあるゴミは)社会的には、約8割が街や川という陸域からのゴミと言われていて、それは当たり前だけど100%人間の作ったゴミ。湘南海岸では、僕の実感からすると9割近くは川、街からやって来ているのではないかと思っている」と指摘する。

 海さくらのゴミ拾い活動に5年間参加した人は、ゴミの多くを占めた紙たばこの吸い殻が電子タバコのフィルターに変わった印象を受けていた。古澤さんもゴミについて、「紙たばこの吸い殻から、電子タバコのプラスチックのギザギザしたやつ(フィルター)に変わってきている。社会で、たばことして売れているものが、電子タバコになってきている」と話した。社会の縮図が海岸ゴミにも反映され、コロナ禍では除菌用シートやマスクが目立つ。飴玉も売れているものが多く出てくる。「世の中で使われているものが、ゴミを見ていると分かるかもしれない」と話した。

海底の森、減ってゆく

取材に応じるNPO法人海さくら理事長古澤純一郎さん(2021年11月5日午後3時、オンライン会議システムZoom画面)白沢真優撮影

 「海底の森がどんどんなくなっている」と語る古澤さん。海藻類が減る原因について、まず地球温暖化を挙げた。「海水温が1度上がると、人間においては10度くらい上がっているイメージ」と言う。海水温が上がると、本来寒くなると生きていられない季節来遊魚が生き残る。そして1~3月ごろに海藻が生えるため、これらの魚が生き残っていると海藻を食べてしまう。古澤さんは「水温が上がっているから生き残れるようになってしまう。本来そこにいなかった魚が(海藻を)食べてしまう」と説明し、「海底の森は大気中の二酸化炭素を採ってくれる」と述べ、「ブルーカーボン」という言葉を紹介した。地球温暖化を引き起こす二酸化炭素が、大気中から海藻など海中の植物に取り込まれれば、海の中に保持される。それがブルーカーボンだ。だが海水温上昇でその働きが弱れば、大気中の二酸化炭素が海中に引き込まれなくなり、地球温暖化がさらに進み、ますます海水温が上がる——という悪循環のおそれがある。古澤さんは「大ピンチ」と懸念した。

 それだけではなく、川から栄養分の高いリンや窒素が海に沢山流れてきており、それらを食事としている微生物やプランクトンが食べきれず、海が濁ってしまう現象が起きている。「栄養が多くて腐ってしまう、富栄養化という状態」になると説明した。

 古澤さんは、学生世代に「自然は辛い時に、助けてくれる、ストレスをとってくれたりする場所。ぜひ遊びに来て、たくさん自然で遊んでもらいたい」と呼びかけた。

人とのつながりという意味で参加

 2021年10月23日に実施された第171回海さくらゴミ拾いには約420人が参加した。海岸が綺麗になるだけでなく「人とのつながり」を感じられることへの喜びの声も聞かれた。

 東京都江東区在住の新井誠さん(38)は、2、3年前にボランティアを行っている知り合いと共に参加したことをきっかけに、時間がある日は参加するようになった。90分かけて江の島まで来ている。大きなゴミは減ってきている印象を受けているが、タバコの吸殻は変わらず、拾い続けている。「人とのつながりという意味で参加しているため、(ボランティアを)続けられる」と語った。普段会えない人にもボランティア活動という場があることで会う機会ができるという。

 横浜市港南区在住の渡辺章光さん(59)は、ネットで海さくらを見つけ、みんなのためになる活動をしたいと思い、参加した。今年5年目で、毎月のゴミ拾い参加証となるスタンプが全ての月に押されると貰えるオリジナルTシャツを沢山持っている。落ちているゴミについて「昔は紙たばこの吸い殻が多かったけれど、今は電子タバコのフィルターに変わってきている」と語った。

【注】1月13日午後6時12分に公開した最初の記事で「海のゴミの約8割が街から排水溝などを通って来ている」と受け取れる表現がありました。正確には「海のゴミの約8割は街や川という陸のエリアから来ている」という実態です。見出し・リード・本文の一部を修正いたしました。(1月17日午後9時30分)