図書館職員、非正規が76%

館数増加、正規職や司書は減少

「無料貸本屋ではない」価値訴える声

2005

 練馬区立図書館で2018年、 運営の民間委託に対しストライキを構える動きが見られた。 今年6月には日本図書館協会 (JLA) が非正規職員 の待遇改善を求める要望書を全国の自治体に送った。こうした、 図書館職員の待遇をめぐる活動が近年起きているが、大きな改善の動きはない。図書館は住民の利用率の上昇や需要によって館数は増加傾向だ。2022年の公立図書館が3305館に対して10年前の2012年は3234館と50館以上増えている。それに合わせて全体の職員数も増えている。一方で正規職員や司書職は大きく減っており、不足分を補うようにして非正規や派遣・委託が爆発的に増加しているのが現状だ。JLAの調査によると図書館で働く人のうち76%と8割近い職員が非正規だという。

日本図書館協会発行の「日本の図書館」各年版をもとに日本図書館協会作成、提供

 図書館職員の行う仕事は私たちが最も多く利用する貸出以外にも研究資料の提供などを行うレファレンス、有限な本棚に収蔵する本を選択する選書、反対に内容の古い本などを廃棄し、整理する除籍といった仕事がある。児童サービスや視覚障害者に対する点字サービスなどは経験を重ねることにより、向上する業務も少なくない。これらの職務を適切に行うために設けられているのが国家資格の一つである司書資格だ。しかし、司書資格を持っていても非正規雇用で働く職員は非常に多い。給与に反映される予算を充実させるためにも、図書館は民主主義を支える国民の情報アクセスの場であり、単なる無料貸本屋ではないという価値を私たち自身が知る必要があると訴える声も専門家からは出ている。

中心業務まで非正規に頼る

 JLAの内部組織である非正規雇用職員に関する委員会の委員長の小形亮さんは「1990年代に一部の図書館で職員が増やせない中、開館時間を増やしたり、サービスの拡充を図るために雇われた非正規職員が10年くらいで増えてしまった」と話す。また「同時期には国の方針で正規職員の枠も減らされた」と言う。

日本図書館協会非正規雇用職員に関する委員会委員長の小形亮さん(2023年5月8日午後2時13分、東京都日野市の明星大学)平出一稀撮影

 図書館では非正規化が進んでいるが司書資格を取得する人は増えている。非正規職員のうち自治体雇用の56%、民間雇用(派遣社員や委託事業者の社員として働く図書館職員)の62%が司書の有資格者であり、図書館の中心業務まで非正規職員に頼る状況が進んでいる。正規職員になれたとしても「専門職ではなく総合職を目指す」という市のジョブローテーションに組み込まれてしまい、図書館で長く経験を積むことは難しい。また正規職として司書を雇用する司書職制度の残る図書館は調布図書館や横浜図書館、一部の県立図書館など数を減らしている。

 JLAの仕事の傍ら明星大学で司書課程の教鞭をとる小形亮さんは「教えといてなんですが」と前置きした上で「問題の一つは、なり手が多いということです。今は一人が辞めても替えが利いてしまうような環境となっている」と指摘する。「毎年大学等での司書資格取得者は1万人に及ぶと言われている。一方公共図書館の職員数は全体で4万人ほどである。正規職員のみならず非常勤職員の募集でさえ相当の倍率になる」

働けるのは5年まで

 広がる非正規化は現場で働く職員にも影響が出ている。都内某所の図書館で働く現場の非正規職員は、非正規の労働環境を力強くこう語る。「最も不安なのは雇い止めがあることです。会計年度任用職員制度になり4回しか更新できなくなり、働けるのが5年になった。5年目というのになると、引き継ぎを考えながら働く形になってしまう」

 この職員は処遇改善を求めて交渉を行っており、所属と氏名が明らかになることで交渉への影響が生じ、場合により交渉が破綻するなどの事態を懸念、匿名を条件に取材に応じた。

 会計年度任用職員制度は2020年から全国的に導入された制度で、非常勤の公務員に対し、自治体ごとであった採用基準や待遇を改善するために昇給制度や休暇の取得など、それまでなかった仕組みができた。しかし、毎年の契約更新があり再任用に回数制限が設けられ全国的には上限2回というところが多い。 東京の豊島区では4回、杉並区では5回など例外はあるが、3年から5年で必ずクビになるという問題を抱えている。非正規で働く職員は来年も自分が仕事に関わり、サービスを良くしようと日々の業務をこなしながらも、常に別の人に仕事を渡せる準備をしなければならない。取材に応じた非正規図書館職員はさらに「図書館の仕組みはずっと続いていくものなのに、職員が続けられないのでは経験の蓄積ができず、サービスの継続が難しくなるかもしれない」と危惧する。

職員の地位向上と図書館の価値理解を

 司書職制度を残す調布市立図書館の元館長で現在同図書館主査の小池信彦さんは司書職を雇用するメリットについて「図書館の場合、経験を積んだ職員がいることで、組織としての継続性が図れる」と語る。職員の知識の向上と経験の蓄積によって、充実した地域の図書館の役割を果たすための資料を積極的に収集、保存することができると指摘する。非正規雇用問題の解決策の一つとして、小池さんは「司書資格取得には27単位科目履修が必要であるが、専門職として確立している医師免許の場合、大学で6年間履修し、国家試験を受験し認められることとなる。学歴が重要というわけではないが、履修する内容の再検討も重要と考える」と話す。司書資格が業務の重要性に対して単純化しすぎており、現場の能力を考慮した適切な学位による地位向上が必要だと指摘する。図書館のこれからについて「図書館を利用して、多くの人に本を読んで欲しい。本を読むことで、その人の可能性を広げ、困難な状況にあって役立てるようないわゆる読書の効能をもっと広めていかなきゃいけない」と語った。

 公立図書館の雇用問題について、専修大学で図書館学を教える野口武悟さんは「まず私たち市民が図書館を使用し、価値を理解していく必要がある」と指摘する。図書館の必要性について「第二次世界大戦後に公立図書館の根拠法ができた際に民主主義を支える国民が等しく情報にアクセスをして広く社会に参画する。そのために図書館は無料で本が読めるし、必要なんです」と話す。また図書館の価値はネットで間違った情報を目にすることの多い現代だからこそ重要だと言う。「図書館は無料だとは言うが、その運営経費は税金なので、私達はお金を払って価値ある情報を買っているとも言える。そう考えると図書館を利用しない手はないと私は考えます」。図書館の雇用問題の解決策として野口さんは「図書の購入費が減らせないなら人件費を削ろうというのが今の方針。そのため非正規や外部委託が増えてくる。打開策として予算を増やすことが一つあるのではないか」と指摘する。「予算を決定する議員のなかには図書館を無料貸本屋として認識している人もいる。図書館の本当の価値を再認識してもらうことが予算を増やすことに繋がる。そのためには私達、市民が図書館の価値を知り、求めていくことで変わっていく」と話す。

【注】調布市立図書館の小池信彦さんの肩書きを当初「調布市立図書館館長」としていましたが正しくは「調布市立図書館の元館長で現在同図書館主査」でした。確認不足によるミスでした。おわび致しますとともに訂正致します。(11月30日午後6時54分)