日本初条例 効果は1年だけでも影響大

埼玉エスカレーター歩行禁止

専門家「効果は数字だけで評価できず」

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 埼玉県がエスカレーターの歩行利用を禁止する「埼玉県エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」を施行してから10月1日で2年が過ぎた。エスカレーターの利用者は「立ち止まった状態で利用しなければならない」、管理者は「エスカレーター利用者に対して、立ち止まって利用することを周知させなければならない」と定めるが、罰則はなく、努力義務だ。アール医療専門職大学教授で、筑波大学の名誉教授でもある徳田克己教授らの調査チームが行った、大宮駅東武線からJRへの乗り換えで使われる上りのエスカレーターでの午前7時半〜8時半の調査では、条例が施行された2021年10月1日は、利用者6370人のうち歩行者が3950人(62%)いたのに対し、3か月経った2022年1月14日の調査では、利用者6948人のうち歩行者が2650人(38.1%)と大幅に減少している。しかし、施行から1年が経った2022年9月30日の調査では、利用者が7782人のうち歩行者が4755人(61.1%時)と施行当時の割合に戻ってしまっている。条例施行前の状態に戻った反面、施行前や直後に見られなかった「右側に立って乗る」人が増えているという。また埼玉県で毎年調査している県政世論調査では、2021年は条例の存在を知っている割合が38.3%だったのに対し、2022年では67.8%まで上昇した。これについて徳田教授は「認知度が条例の効果に関わることはない。条例を知っていても歩く人は歩く」と話した。徳田教授は条例制定は評価しながらも、罰則を作るなど改善が必要という立場だ。

暗黙のルールを埼玉から変えたい

徳田克己教授ら研究チームの大宮駅でのエスカレーターの歩行利用の調査結果より武藤岳人作成

 危険な利用をなくし、エスカレーター事故を減らすことを目的として作られた条例だが、埼玉県消費生活課への賛成反対や問い合わせは、2022年11月30日時点で、242件。そのうち、条例に肯定的な意見が84件、否定的な意見が39件で、残りの119件は条例の内容に関する質問や賛否不明の提案となっている。年齢層については、メール等での意見は不明だが、電話で意見する人の多くは高齢層からで、賛成の支持を集めているという。
埼玉県消費生活課の松田順嗣さんは「慣習となってしまったものをすぐに変えることは難しいと思う。多くの人が条例を知り、協力してもらえるようになれば」と話す。

 同条例は、暗黙のルールとなっているエスカレーターの片側開け利用に一石を投じる結果となり、名古屋市でも10月1日より全国二例目となる条例が施行された。松田さんは「様々な県で条例が作られ、ゆくゆくは法律としてエスカレーター上の歩行が禁止になってほしい」と語った。

効果分からず、何を評価

 エスカレーター条例が制定されてから、制定した埼玉県自体は条例の効果について調査報告はしていない。研究者の調査によって報道されているのが現状だ。埼玉県消費生活課では広報活動を行なっているが、効果の調査をしていないことについて松田さんは、「人員を割くことができないため調査は難しい」と話した。また、徳田教授は、「エスカレーターを歩くという判断(徳田教授は3歩以上で歩いたと判定)が人それぞれになってしまうため、判断基準を統一することはなかなか出来ない。さらに、調査をしていることが利用者から分からないよう隠れてやらなければならないが、難しいだろう」と話した。また、エスカレーターの隣に階段があるかないかや、エスカレーターの長さによって歩く人が増えたり減ったりするため、そうした影響と条例の効果が区別しづらいという。

アール医療専門職大学教授、筑波大学名誉教授の徳田克己さん(本人提供)

 エスカレーター条例は、埼玉県内で起きたエスカレーターの事故件数ではなく、日本エレベーター協会より発表される全国のエスカレーター事故件数が多いことが要因でつくられた。しかし、日本エレベーター協会は都道府県別での事故件数は発表しておらず、埼玉県内の事故件数が把握出来ないため、条例前後で事故を減らすことができたのかどうか検証を行うことができない。詳細な件数を把握していないことを徳田教授に尋ねると、「事故件数を把握することはできない」と語った。実際徳田教授がエスカレーター条例の調査を行っている時、エスカレーターで転倒した人はそのまますぐ移動してしまったという。このような転倒事故は誰にも把握されていないことになる。搬送された数だけではない小さな事故は目に見えないところで起きている。

 条例に対して、エスカレーターの危険性があるのか分からないと言った声や、意味がないのではないかといった声が県庁へ寄せられている中、この条例に意味はあったのか。徳田教授は「埼玉県に続いて名古屋市でも同じような条例が作られており、日本に影響を与える条例となったことを評価するべきだ」と語った。条例を作っただけで終わらず、他の自治体でも条例が作られ、意識の変革を促すきっかけとなったことを評価する。一方、施行から時間が経ち、歩く人が増えつつある現状については、罰金など、罰則を設けると忘れないようになると問題提起した。

一つの工夫で大きく変化も

 埼玉県では条例制定後、街頭キャンペーンなど啓発活動を行ってきた。徳田教授は「街頭活動は一時的な効果は得られるが、長く続かないだろう」と話した。続けて「床面にステッカーなどを貼って注意を促しているものがあるが、見なければ気づかないものであるため、あまり効果的ではない」と語った。最も効果的だと話していたものは、エスカレーターの段差部分に「歩くな」という文字を入れることで、乗る際必ず目に入るようになるという。また、足形をエスカレーター上に書くことにより、子どもが足型に合わせて立つようになるため、エスカレーターで歩く人が減るという。しかし、このようなエスカレーターを作り直し、設置するためには、費用が高く現状では難しいと述べた。