車いす利用者に「それならTVで」

当事者2人証言、観戦にハードル

国立競技場試合 駐車場提供なし3割

特集 車いすのサッカーファンを阻むのは(下)

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VIRIDISの取材に応じる宮城由美子さん(zoom画面のスクリーンショット画像)=2023年12月15日午後1時40分ごろ、大森遥都撮影

 国立競技場(東京都新宿区)で2021年に開催されたサッカー天皇杯決勝。主催する日本サッカー協会(JFA)は、事前に「駐車場はございません」と案内していた。国立競技場地下には車いす駐車場が設置されているが、主催者によっては観客の障害者に提供しないケースもあり、今回もそうだった。脳性麻痺(まひ)などがありバギー型車いすに乗る宮城遼大(りょうた)さんと一緒に、大分トリニータとの決勝戦を観戦するため、浦和レッズファンの母・由美子(ゆみこ)さんは、駐車場を利用できるよう、JFAの窓口に電話で問い合わせた。

 「駐車場を(観客の障害者に)開放してほしい。特に、うちの場合は呼吸器もあって、 雨が降ったら機械が濡れて壊れてしまう」

ユニフォームを着て浦和レッズ試合を観戦する宮城遼大さん=2023年5月14日、さいたま市の埼玉スタジアム2002で(宮城由美子さん提供)

 そう求めると、JFA側の担当者はこう返答したと宮城さんはいう。

 「そこまでして会場に来られるのも大変なので、それならお家でテレビで観戦してください。チケットは払い戻しますので」

 宮城さんのほか、車いす利用者の上野美佐穂(みさお)さん(50)も同様の証言をしている。こうした対応について確認するため、VIRIDISはJFAに計3回問い合わせたものの、これまでに回答はない。

「現地で観戦するかはこちらが決めること」

2021年の天皇杯決勝について、JFAは当初「駐車場のご用意はございません」と案内していた(上)が、要望を受けてホームページで「車椅子席ご購入の方への駐車場のご用意」を発表(下、上野美佐穂さん提供)した

 「『テレビで観れば…』と言われたことには、びっくりしました。いろんなことが進んできてる世の中で」。宮城さんは、当時をこう振り返る。

 「主催者側も、車いすと言えば、自分で押せる形というイメージが強いのかなと思う。だから、うちみたいに寝た状態の子がバギーで行くというのは、考えられていないのかもしれません」と推測し、「どんな状況であろうと、現地で観戦するかどうかはこちらが決めること」と強調する。

 駐車場は結局、用意されることになった。だが、要望した宮城さんらに対して連絡はなかったという。

障害者の観戦 「移動」がハードル

 障害者にとってスポーツ観戦では、「移動」がハードルになる。

 第一生命経済研究所(東京)が障害のある人や要介護者と一緒にスポーツ観戦をした人に、観戦時に感じた問題を尋ねたアンケートでは、「その方にとって観戦場所までの移動が難しかった」や「観戦場所での移動が難しかった」と答えた人は、それぞれ65.6%に上り、選択肢の中で最大だった。

 調査を実施した第一生命経済研究所ライフデザイン研究部の水野映子・主任研究員は、「観戦場所内外での移動の問題が特に大きいといえる。身体機能が低い人やその同行者にとって、観戦場所まで行くことは一般の人以上に大変なのだろう」とレポートの中で指摘している。

駐車場あるのに…用意進まず

 ただ、試合当日のスタジアム運営を担う主催者側の対応は鈍い。

 VIRIDISが23年に国立競技場で開催されたサッカーやラグビーなどのスポーツ試合について、車いす駐車場の用意がホームページ(HP)上などで案内されているかを調べたところ、同競技場には車いす用駐車施設があるにもかかわらず、観戦者に対しては3割で「用意がない」と案内されていたことが判明した。

 同年1月1日〜12月28日までの33日程(同じ主催者で同日中に複数試合が実施された場合は合わせて「1日程」としてカウント)のうち、用意があるとHPで記していたのは17(51.5%)で、10の試合日程(30.3%)では用意しないとの案内だった。海外の有名チーム同士の試合も含む6(18.1%)の試合日程では、HP上では駐車場の用意の有無について確認できる記述がなかった。

 同年11月のルヴァンカップ決勝(浦和レッズ対アビスパ福岡戦)では当初「用意がない」と案内し、車いすの観戦希望者からの指摘を受けて車いす駐車場利用ができると対応を変更したことが分かっている。

 国立競技場を管理・運営する日本スポーツ振興センター(JSC)によると、イベント主催者など関係者用として305台の駐車場(うち23台が車いす使用者用)があるという。

スポーツ施設のユニバーサルデザイン化ガイドブック=大森遥都撮影

運営ガイドブック作成の動き

 スポーツ施設の運営についてのガイドブックの中で、障害者ができるだけ差異なく利用できるようにする対応の在り方にも触れる動きがある。

 スポーツ庁では2022年度、スポーツ施設を設置する地方自治体や運営を担う民間事業者に向け、配慮すべき課題やその対応策を記載している「スポーツ施設のユニバーサルデザイン化ガイドブック」を作成した。同庁の井上壮彌(そうや)施設企画係長(30)は、「バリアフリー関連のルールをまとめたガイドラインはあったが、考え方や、管理・運営する側に立った指針はこれまであまりなかった。東京五輪後、スポーツに取り組む機運が高まるなか、考え方やあり方として、参考になるものを作るべきだと思った」とVIRIDISの取材に作成の狙いを説明。

「スポーツ施設のユニバーサルデザイン化ガイドブック」について説明するスポーツ庁の井上壮彌・施設企画係長=2023年12月27日午後4時半、東京都千代田区霞が関で、大森遥都撮影

 ガイドブックでは、建築などのハード面とともに、運営時の対応などソフト面についても紹介があり、井上係長は「施設を作ったままにするのではなく、利用しやすいようにニーズを踏まえた運用や環境整備を図っていくことが大事になる」と話した。

 ガイドブックは、スポーツ庁のホームページからダウンロードできる。

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